研究実績の概要 |
本研究では,(1) 様々な文化において社会的発展の方向性がどのように捉えられているのかを整理すること,さらに(2)幸福感の理想のあり方とその理想水準の文化差を明らかにすることを目的とした.研究1と研究2では、人々の考える自国の社会的発展の方向性が文化によって異なっており,幸福感のあり方にも文化差が見られることが明らかになった. 研究1では,ブラジル,カナダ,フランス,香港,インド,日本,メキシコ,ナイジェリア,ポーランド,トルコ,アメリカから3,214名に実験を行い,社会的発展の方向性が一般的にどのように考えられているのかに関して文化差を検証した.結果、社会的発展の方向性は一般的な人々の頭の中で今日的方向性と伝統的方向性(人口増加や軍事力強化)という対立軸を主軸として捉られる傾向にあり、この傾向は今回検証したすべての国においては文化普遍的であることが示された. しかし,それとは異なる社会的発展性の捉え方には文化的差異が見られており,これは理想的な社会的発展の方向性は文化によって異なるという仮説を支持している. 研究2では50国の12,887名の被験者に調査を行い,理想の幸福感のあり方が文化によって異なることを示した.関係性調和を重視する自己観を醸成している文化的文脈では,協調的幸福感が理想とされている一方で,自己表現を重視する自己観を醸成している文化的文脈では,独立的な幸福感のあり方が理想とされていた.さらに、今回調査を行った50国では,文化普遍的に家族の幸福感を高めることが個人の幸福感を高めることよりも理想的だとみなされており,この二つの幸福感の捉え方の差異はその文化における関係流動性の高低によって説明されていた.また,幸福感の理想水準は文化によって統計的有意に異なっており,この文化差は生態環境的条件によって説明されていた.
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