研究課題/領域番号 |
17F17818
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中井 浩巳 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00243056)
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研究分担者 |
MAIER TONI 早稲田大学, 理工学術院, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2017-11-10 – 2020-03-31
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キーワード | 相対論的量子化学 / 2成分相対論法 / 密度汎関数理論 / 交換相関汎関数 / 無限次ダグラス・クロール法 / 局所混成汎関数 / スピン軌道相互作用 |
研究実績の概要 |
局所混成汎関数は、密度汎関数理論における交換相関汎関数の一種であり、厳密交換の混成比率が実空間座標に依存した表式を有する。本研究では、相対論的密度汎関数理論における局所混成汎関数の開発を目的とする。初年度は、2成分相対論における局所混成汎関数に関して理論基盤の構築およびプログラムの開発を行った。特に、無限次Douglas-Kroll-Hess法に基づく相対論的逆変換と非共線的な電子スピンの取り扱いを密度行列に基づき効率的に行う方法について、定式化と実装を行った。これらは局所混成汎関数を用いた計算における2電子項の相対論効果を記述するために必要である。前者の密度行列に基づく相対論的変換は、他の量子化学計算手法にも適用可能な汎用性の高い方法である。実装は相対論的量子化学プログラムRAQETに対して行った。本研究で新たに開発した厳密交換の効率的な半数値積分を適用することによって、非相対論的な局所混成汎関数の実装で確立されている交換汎関数の積分を、相対論的な枠組みに拡張することに成功した。本研究で開発した計算手法は、従来の演算子変換に基づく無限次Douglas-Kroll-Hess法の実装と比較して、半局所交換相関関数を用いた密度汎関数計算をより効率的に行えることが、テスト計算により明らかとなった。局所混成汎関数とその他の標準的な交換相関関数を用いて数値検証を行ったところ、内殻軌道エネルギーに関して大きなスカラー相対論効果と汎関数依存性が確認された。その一方で、局所混成汎関数を用いた場合の1電子スピン-軌道相互作用の影響は標準的な汎関数と同程度であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基盤となる無限次Douglas-Kroll-Hess法の逆変換は、従来の無限次Douglas-Kroll-Hess法と理論上等価であると証明されている。しかし、密度行列に基づく定式化による局所混成汎関数を実現するにあたり、理論的および技術的な問題が発生した。1つは、相対論的な変換行列の計算で導入されるresolution of identity近似において、補助基底を自動生成する必要があることである。もう1つの問題は、厳密交換の計算において、非局所性によって半局所的交換相関汎関数とは異なる特別な処理が必要なことである。これにより相対論的変換がより複雑になる。これらの問題は本研究の開始時には予想されておらず、新しい理論を実装する際に発生した。しかし、理論上および技術上の適切な解決策を発見できたため、研究全体の進捗を著しく遅らせる事態にはならなかった。同様に、非共線的な電子スピンを考慮した実装では、数値上の問題による不正確さが確認された。これは、理論基盤の不備に起因する可能性があったが、適切な近似を導入して解決された。以上の通り、本年度の研究において直面した理論上および技術上の問題は、問題となった箇所について理論的、技術的側面から深い考察を行い、得られた知見から得られた解決策によって解決された。最終的に、局所混成汎関数を用いた計算における相対論効果は、予想された通りであることがわかり、さらなる理論的、技術的な修正は不要であった。
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今後の研究の推進方策 |
密度行列に基づく相対論的変換と局所混成汎関数における非共線電子スピンの取り扱いは、現時点で別々に実装されている。本研究の次のステップは、両者を組み合わせてスカラー相対論およびスピン-軌道相互作用を同時に扱えるようにすることである。これを実行するには、相対論的変換における非共線スピンの考慮が必要である。この拡張によって局所混成汎関数による新たな相対論効果が明らかになる可能性がある。局所混成汎関数についてすでに検証されている物理量、例えば重元素を含む分子の内殻軌道エネルギー、原子化エネルギーなどについて、より詳細な検証が望まれる。一方で、本研究の主な目的は、半局所交換相関汎関数および厳密交換に対して密度行列に基づいた相対論的取り扱いを開発することに加えて、より精巧な厳密交換の混成比率を有する局所領域分割混成汎関数を開発することである。これには、標準的でない厳密交換積分の実装とこれまでに実装したルーチンの拡張が必要であるが、相対論的な取り扱いの修正はわずかである。このアプローチに基づいて、内殻励起スペクトルのような相対論効果に大きく影響される物理量の記述に適した新しい混成汎関数を開発する。特に、解析的な相対論的表式が知られているシンプルな局所交換と修正された局所相関の開発を行う。このような汎関数は、非相対論的局所混成汎関数の場合では高精度な結果を与えることがすでに知られている。汎関数の開発では、厳密な交換相関エネルギーおよび熱化学や速度論のテストセットに対する標準的な技術が使用されるべきである。また、本研究の終了までに、重元素を含む金属錯体を利用した触媒反応についても開発した汎関数を評価したいと考えている。
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