研究実績の概要 |
【研究背景】膨大なゲノムには水質・水温・流速等の様々な環境因子の自然選択を受けた遺伝子が数多く存在する。この環境選択性遺伝子を同定できれば,生物の適応的進化の理解が促進される。この遺伝子と環境を直接関連付ける適応的進化の理解により,将来の気候変動や土地利用変化などの環境変化後の遺伝的多様性の劣化をより正確に予測することが可能となる。 【研究目的】水温の変化に敏感な河川水生昆虫カワゲラを対象に,日本列島の寒冷~亜熱帯の気候勾配に沿った適応的なRNAレベルの遺伝構造の変化を調べて,将来の気候変動(地球温暖化)に伴う遺伝的多様性の劣化や種の絶滅の可能性を予測する. 【方法】札幌,仙台,岐阜,松山の日本列島の気候条件に沿った4地域の流域において,河川水生昆虫カワゲラの幼虫個体を採取した。生物個体の採取と共に,遺伝的な適応に関係する可能性のある気温・水温・流速・河床材料などの物理的環境の現地調査,GISを使った土地利用状況(農地,山林等)や都市化率の定量化など,環境条件を多岐に渡って調査した。さらに,次世代シークエンサー(HiSeq 4000)を使ったゲノムワイドのトランスクリプトーム解析により,DNAから翻訳されたmRNAライブラリーの配列データを取得した。 【結果および考察】次世代シーケンス解析から353,352配列が得られた.その内,BLAST検索でヒットしたのは1732配列,411個の遺伝子がアノテーションされた.地域間において共通の遺伝子領域は1つのみだったが,特異な遺伝子領域は390個とはるかに多かった.特に札幌では他3地域より約40個多い131個の遺伝子領域が特異だった.アノテーションされた遺伝子領域が札幌において143個で他3地域より40個以上多かったことから,極端な環境状態に適応するためにカワゲラはより多くの遺伝子を発現する必要があると推測された.
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