本研究は、フランスの中等教育において哲学教科書がどのようなプログラムの下に作成され、授業において使用されているかを調査した上で、わが国の中等教育において、フランスの「哲学」科目に一部対応する「倫理」の学習指導要領、教科書と照らし合わせ、両国の中等教育における「哲学(倫理)」の位置づけ・役割を比較考察する方法を探求するものである。これは、学習指導要領改訂により、今後、わが国の「倫理」科目が知識偏重ではなく、原典を重視しつつ、「考える倫理」へと舵を切っていくとみられることから、その傾向や方向性を、国際的な視点から評価することが必要になると考え、着想を得たものである。 初めに、日本での資料収集を行った後、9月にフランスでの調査を行った。教科書等の収集に加え、高校教員への聞き取り調査を行い、パリ郊外にある Guillaume Budé 高校の授業を見学した。そこでは「文学」「経済・社会」「科学」に分かれた各クラスを聴講し、実際の教育現場における教科書・授業・教員との関係性が日本と大きく異なることを確認した。帰国後、指導プログラムの全訳を行い、その内容と、出版社によって特徴の異なる教科書内容とがどのように対応しているかの分析を行った。並行して、我が国の「倫理」の学習指導要領・解説等を検討し、フランスの教育プログラムと比較対照できる視角を模索し、今後の見通しを図った。その内容を2018年3月に発表し、今後論文化することが決定されている。 本研究は当初、日仏の指導要領と教科書から「哲学(倫理)」のあり方にアプローチすることを目標としていたが、現地での調査研究の結果、教科書の実際の使用法が日本と大きく異なることが明らかになった。今後、指導要領、教科書、教員、授業及び大学入学試験の間の「関係性」に焦点を当て、教科書の役割について、より実践的で網羅的な調査を深めることが重要になる。
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