研究実績の概要 |
本研究では、北海道東部におけるアイヌ文化の成り立ちを探り、地域の特性を理解する足がかりを得ることを目的に、標津町内に所在する大規模竪穴住居跡群、標津遺跡群を構成する遺跡の1つ、ポー川河岸3遺跡を対象に、地元標津高校の生徒や、根室管内教職員らと共に発掘調査を行った。この遺跡は、標津町内を流れるポー川の自然堤防上に残された遺跡で、方形、長方形の平面形を呈する合計6基の堅穴住居跡が、地表面からくぼみとして観察できる状態で残されている。標津遺跡群で確認されている堅穴の大半は、標高9m以上、または15m以上の台地の上に残されているが、当遺跡は標高2~3mの低位段丘面に位置し、他の堅穴群とは遺跡の立地が異なる。従来、竪穴くぼみの平面形からおよそ1,000年前の擦文時代のものと捉えられてきたが、今回の調査の結果、考古学の時代区分では、アイヌ文化期に比定さる、14世紀まで下る竪穴であることを確認した。この結果は、標津町内に残されたくぼみで残る大規模竪穴住居跡群は、従来想定されていた時代幅よりも広い、縄文時代からアイヌ文化期(中世相当期)に至る竪穴群であることを証明する重要な成果となった。また、遺跡周辺の地形形成史を探る基礎調査を行った結果、ポー川河岸3遺跡が残された自然堤防は、中世以降河川氾濫の影響を受け難い安定した土地となった可能性が推定されたため、アイヌ文化期に比定される竪穴が、ポー川の自然堤防上に多く残されている可能性が想定された。今回の調査結果を踏まえ、今後も引き続きポー川自然堤防上の遺跡を重点的に調査し、今回確認した竪穴よりもさらに新しい、近世に比定される竪穴の有無の確認を行っていく。また引き続き標津高校等と連携し、調査そのものを地域の教育資源として活かしていくよう努めていく。
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