本研究では、生徒による物理現象のシミュレーション作成と、安価で小型なPC(ラズベリーパイ)にセンサーを組み合わせてできる物理実験のデータ処理の方法を取り入れた授業を開発して、参加した生徒の感想や小テスト、作品内容などから評価した。シミュレーションとデータ処理には「スクラッチ」を共通のプログラミング言語に用いた。「スクラッチ」は、数式を記述する際に独特の方法が用いられており指導する際に配慮が必要な一方、生徒が学んでいたことから理解しやすいと判断したためである。 開発した実験方法の一つが気体の断熱変化の計測である。実験に参加したのは、肢体不自由や発達障害などを主たる理由として特別支援学校に在籍する高等部の生徒7名である。そのうち「断熱変化」や「等温変化」という言葉だけを事前に知っていたのは1名である。また、断熱変化の圧力(P)と体積(V)の変化を高校レベルの実験で計測している事例は、希だと思われる。実験では、注射器を用いて断熱圧縮に近い状況を作り感圧センサーから得た値を「スクラッチ」によるプログラミングで処理して、PV線図に該当するグラフを描かせて確認した。また、実験後に理論式から作成したシミュレーションも行った。その結果、「実際にピストンを押したときに手から得られる圧力変化の感覚とリアルタイムでモニターに描かれる圧力変化の図が一致して、理解しやすかった」旨のコメントを5名から得たほか、小テストでも全員がPV線図の特徴を習得できたなどの効果が得られた。今後、一般高校の生徒を対象に研究を進めるほか詳細については、30年度の学会などで発表していく予定である。 その他、加速度センサーを用いた実験にも取り組んだ。実験を基にしたシミュレーション作成およびゲーム等への応用は、学習意欲を高めるほか、誤概念の払拭にも有効な可能性が見いだせた。
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