研究実績の概要 |
造血幹細胞移植後の免疫抑制剤の血中濃度管理は移植片対宿主病(GVHD)発症予防や副作用回避の観点から重要である。CIであるシクロスポリン(CYA)およびタクロリムス(TCR)はCYP3A4の基質であり、CYP3A4の阻害あるいは誘導作用を有する薬剤との併用により、血中濃度が変動することが知られている。選択的ニューロキニン1受容体拮抗薬であるアプレピタント(APR)は、高い制吐性を有しており、移植領域においても積極的に使用されているが、CYP2C9の誘導作用に加え、中程度のCYP3A4阻害作用、誘導作用を有することが知られており、DDIに注意が必要な薬剤である。実際、CYP2C9の基質であるワルファリン(WF)との併用では、APR服用終了後1週間ではWFの作用増強を、終了2週間後では逆に作用減弱を認めるという複雑なタイムプロファイルを示すことが報告されている[Biol. Pharm. Bull 39 : 863-868, 2016]。造血幹細胞移植の前処置においてAPRを使用した場合は、移植前日より開始されるCIとの間でDDIが起こることが予測されるが、APRとCIのDDIに関する情報は極めて限られており[Pharmacotherapy, 33(9) : 893-901, 2013]、特にリスクが高い移植直後のCIの血中濃度を適切に管理するための情報が不足しているのが現状である。そこで、本研究ではAPR併用時のCIの血中濃度変動プロファイルを薬物動態学的に解析することで、APR服用後の経過時間からCI血中濃度の変動幅を予測し適切な投与量調整をおこなうための方法論を提案することを目的として検討を行った。 TCRとAPR併用時の解析結果では、移植後5日目前後からAPRのCYP3A4誘導作用によると思われるTCRのクリアランス上昇を認め、移植後6日目以降にTCRの増量が必要であった。APR併用時は移植後5日目~9日目頃の期間においてTCRの用量を1日に10%程度の割合(計30%)で増量をすることを検討する必要があった。これらの結果から、APR使用終了後も慎重なTCR濃度モニタリングが必要と考えられた。今後は、CYAとAPR併用時の影響についても解析を進めていく予定である。
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