【研究目的】 統合失調症は幻覚、妄想、意欲低下・自発性の欠如、認知機能障害を主症状とする精神疾患である。発症メカニズムについて様々な仮説が提唱されているが、明確な病因はいまだに解明されていない。Reelinは脳の正常な神経構造形成や記憶・学習等の機能発現に重要な役割を担う細胞外マトリックス糖タンパクの一種であり、統合失調症患者脳内のReelinタンパクやmRNA発現量の低下が報告されている。a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs 3(ADAMTS-3)はReelinを特異的に分解して不活化するプロテアーゼであり、脳に高発現することが分かっている。本研究では、成熟期の脳におけるADAMTS-3のRcclin分解活性と統合失調症との関連を検証し、統合失調症の新規治療法の開発を目的とした。 【研究方法】 ADAMTS-3遺伝子ノックダウンマウスの作製は、レンチウイルスを用いてADAMTS-3遺伝子のshort-hairpinRNA(shRNA)を成熟期マウス脳内に導入し、ADAMTS-3遺伝子ノックダウンマウスを作製した。ADAMTS-2およびADAMTS-3 mRNA発現量はリアルタイムPCR法によって測定した。ADAMTS-3遺伝子ノックダウンによるタンパク質の発現レベルに与える影響を調べるため、ノックダウンマウスの脳からサンプルを調製し、ウエスタンブロッティング法によってReelin及びReelinの下流に存在し記憶等の脳の高次機能に関わるDablのタンパク質発現量の変化を調べた。 【研究成果】 ADAMTS-3ノックダウンマウスの脳内では、ADAMTS-3 mRNA発現量がコントロールの約60%まで減少した。一方、ADAMTS-2およびReelinのmRNA発現量に有意な変化は認められなかった。ADAMTS-3ノックダウンマウスの脳内Reelin及びDab1のタンパク質発現量についても大きな変化は認められなかった。ADAMTS-3単独のノックダウンでは脳内Reelinを増加させることは困難であるため、他のアイソザイムも合わせてノックダウンする必要があると考えられる
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