【背景】放射線治療による味覚障害の発症機序として、放射線照射によって口腔内の味蕾細胞が破壊されることで感覚性障害が生じると考えられている。さらに、放射線治療による味覚障害に対して、味蕾細胞の新陳代謝に必要不可欠な亜鉛を補充することで症状の改善が見られたと報告されている。一方、これら報告の多くが、味覚障害に対する治療効果のエビデンスが乏しい。我々は、これまでに放射線誘発口腔粘膜炎モデル(ハムスター)に対するバルプロ酸ナトリウムの有用性について検討し、口腔粘膜炎症状の改善効果を明らかにしている。そこで本研究では、バルプロ酸ナトリウムの味蕾細胞に対する治療効果を期待し、放射線誘発味覚障害モデルを用いた検討を行うこととした。 【経過】味覚障害モデルの作製 : 7週齢のICR系雄性マウスの頭顎部へ放射線の局所照射を行った。照射線量は0・5・10・15Gyの4群とし、照射後に苦味成分である塩酸キニーネを含む蒸留水(0.3mM)と通常の蒸留水との飲水量を経時的に比較し、味覚障害の発現有無について検討した。また、甘味成分であるスクロースを含む蒸留水(0.1M)においても同様に、0・15Gyの2群で比較検討した。 【結果】4群全てで塩酸キニーネを含む蒸留水と比較して通常の蒸留水を多く飲水していることがわかった。一方、スクロースを含む蒸留水では、0Gyにおいてスクロースを多く飲水していたが、15Gyにおいては蒸留水と比較して飲水量に差はみられなかった。 【考察】放射線照射に伴う味覚障害は、五味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)で差が生じる可能性が示唆された。バルプロ酸ナトリウムの治療効果についての検討は、味覚障害モデルを用いて現在進行中である。
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