[研究目的]近年、不妊治療、家畜の繁殖、実験動物の作製において、体外受精に代表される生殖工学技術が利用されている。体外受精では、受精卵を効率的に作製するため、精子の受精能の活性化を誘起することが重要である。これまでに、我々は、環状オリゴ糖であるシクロデキストリン(CD)が、精子の受精能の活性化作用を有することを見出している。しかしながら、CDによる受精能活性化作用について詳細なメカニズムは明らかになっていない。そこで本研究では、CDの精子受精能活性化作用を利用し、精子の受精能活性化機構の解明及び精子の受精能改善に関する新規生殖補助技術の開発を目指した。 [研究方法]C57BL/6J系統の成熟雄マウスより精子を採取し、精子を3種類のCD(MBCD : メチルβシクロデキストリン、DMBCD : ジメチルβシクロデキストリン、DMACD : ジメチルαシクロデキストリン)を含有した培地中で培養し、精子の受精能、運動能、先体反応誘起率、精子生体膜脂質の漏出量、ラフトの局在変化について評価した。また、体外受精により得られた胚を用いて胚移植を実施した。さらに、各種CD処理した精子を用いて人工授精を実施した。 [研究成果]各種CD処理により、ラフトの局在変化、先体反応及び体外受精率が顕著に向上した。また、運動性解析により各種CDは精子頭部の振幅を向上させた。さらに、MBCD及びDMBCDはコレステロール及びリン脂質を、DMACDはリン脂質の漏出のみを促進させた。各種CD処理精子より得られた胚は、胚移植により正常に産子へと発生した。また、各種CD処理した精子は、人工授精においても受精能を有することが明らかとなった。本知見は、各種CDの生殖補助技術への有用性を示すとともに、精子の活性化機構における新規メカニズムの解明に有用な知見を提供するものと考える。本成果は、日本薬学会第138年会で発表した(学生優秀発表賞受賞)。
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