研究課題/領域番号 |
17H00742
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北澤 茂 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (00251231)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 背景座標系 / 視覚安定性 / 楔前部 |
研究実績の概要 |
我々は毎秒3回も目を動かすのに、周囲の世界は動かない。脳はいかにして視覚世界を安定させるのか。我々は、ずれた網膜像が「背景」を基準にして統合されるという「背景座標仮説」を提唱した。本研究では、1)「背景座標ニューロン」がサルの楔前部に存在すること、2)先行知見を基に構築した人工神経回路の楔前部相当層に背景座標ニューロンが自律的に獲得されること、3)楔前部の外乱により世界が揺れること、を示す。これら3段階の研究を通じて、楔前部の背景座標が視覚世界を安定化していることを証明する。2019年度は下記の項目に関してそれぞれ成果を挙げた。 1) サルを用いた神経生理学的研究 網膜座標系から背景座標系への変換に関して、楔前部の1285個のニューロンの詳細な解析を進めた結果、「目標と背景の位置を網膜座標系で時分割表現しながら、背景優位の時間帯に両者を統合することで実現されている」という結論を得た。本成果の論文原稿を作成した。また、招待講演等で成果を公表した。 2) 人工神経回路を使った新たな学習実験 深層学習の技術を用いて得た成果の論文作成を進めた。 3)外乱実験 眼球運動計測と干渉せずに視野全体を随意に動かすことができる仮想現実装置を用いて、ずれの量とずれの気づきの関係を詳細に検討した。その結果、ずれのタイミングで「ホワイトアウト」を挿入すると1度程度の大きなずれも無視されうることが明らかとなった。さらに、交流刺激の代わりにさらに侵襲性が小さい「静磁場刺激法」を導入して、楔前部の機能を低下させることで、実際にはずれが生じていないタイミングで「動いた」と感じる確率が有意に上昇することを発見した。これは楔前部が視覚世界の安定化に貢献していることを示唆する初めての証拠となりうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)サルを用いた神経生理学的研究においては、背景座標系の計算過程に関する我々の知見を論文原稿にまとめた。 2)人工神経回路を使った学習実験においても論文化が進んでいる。 3)外乱実験に関しては、静磁場刺激を用いた実験で、作業仮説に一致する極めて重要な知見を得ることにほぼ成功した。 以上の点から、計画通りに進捗していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
1)神経生理学的研究については、成果を論文にまとめて発表する。 2)人工神経回路については、成果を論文にまとめて発表する。。 3)外乱実験の被験者数を増やし、確実な成果とする。 4)年度中に各研究成果の論文が掲載受理されるように努める。
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