研究課題/領域番号 |
17H00751
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岩田 洋夫 筑波大学, システム情報系, 教授 (60184884)
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研究分担者 |
矢野 博明 筑波大学, システム情報系, 教授 (80312825)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | バーチャルリアリティ |
研究実績の概要 |
歩行移動インタフェースは、バーチャルな空間を歩いて移動する感覚を生成する。自然な歩行感覚を得るためには、2つの機能を実現しなければならない。まず第一に、歩行運動を行わせつつ、体の位置を一定に保つ移動の打ち消しが不可欠である。移動の打ち消しを行うためには、歩行者の足の動きに合わせて床を逆方向に駆動する仕掛けが必要である。次に、歩行による移動のもう一つの重要な機能として、方向の変換がある。好きな方向に行けるのでなければ自然な歩行とは言えない。移動の打ち消しと方向の変換をどうやって同時に実現するかということが、歩行移動インタフェースの中心的な技術になる。 本研究では、ロボットタイルの研究において得られた知見を活かし、全方向トレッドミルのような汎用性を有する新たな歩行移動インタフェースの開発を行った。この新方式には試行錯誤が必要なため、次の3つの段階を踏んで、5年間の研究を進めている。 [Increment 1] 可動モジュール単体の開発 (H29~30)[Increment 2] 8個の可動モジュール群による、問題点の洗い出し (R1)[Increment 3] 改良された16個の可動モジュール群によるシステム全体の構築と評価 (R2~3)。 本年度は、研究項目⑤ゾル・ゲル変換アルゴリズムの開発、を実施した。前記の実験を通じて明らかになった問題点を整理し、可動モジュールテストベッドに改良を加え、ハードウェアを完成させた。この可動モジュールを用いて、ゾル・ゲル変換と歩行者の引き戻しを行わせる制御アルゴリズムを開発した。これと並行して、従来より課題であった歩行時の加速度感を提示するための装置を新たに開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではロボットタイルを出発点に、新たな歩行移動インタフェースの実現を目指している。ロボットタイルは4~6台の全方向移動機構を有する床が、飛び石のように連なり、歩き去った後のタイルが歩行者の前方に戻ってきて新たな歩行面を提供するものである。歩行方向が変わると、その方向にタイルが迎えにくるので、任意の方向に歩行が可能である。タイル上面に昇降機構を載せれば、階段などの凹凸面の提示も可能である。本研究ではタイルに相当する全方向移動機構として、可動モジュールの設計と製作を行ってきた。この新機構は、2つの動輪の差動によって全方向の移動を実現するもので、人が載る天板は、動輪が向いている方向とは来異なる任意の方向を向くことができるように旋回軸を備えている。 本年度は、多数の可動モジュールによって構成される可変形状床を駆動するためのプログラムを開発した。具体的には4台の可動モジュールが密着してゲル状態になり、歩行者が立つ床面を提供し、その周辺を12台の可動モジュールがゾル状態で散開し、歩行動作に合わせて循環し、新たなゲル状態を提供する。シミュレーションを通じてこのプログラムが的確に動作することを確認した。これに加えて歩行者に加速度感を提示する手法を開発した。 上記の成果によって、可変形状床のシステム全体を稼働させる準備が整った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、多数の可動モジュールがゾル・ゲル変換を行う「可変形状床」という独創的な概念に基づく新たな歩行移動インタフェースの実現を目指す。これは、歩行面を多数の可動モジュールの集合体で構成し、歩行者が立つ部分はそれらが密に結合し、流動性のないゲル状になる。その歩行面の周辺には、可動モジュールが互いに結合せず、流動性のあるゾル状になっている。歩行者が移動してゲル状領域の端に近づくと、ゾル状の可動モジュールがそこに寄り集まってきて新たなゲル状の歩行面を生成する。歩き去った後のゲル状可動モジュールは結合を解き、周囲のゾル状可動モジュール群に溶け込む。歩行者が移動すると、ゲル状領域が反対方向に移動し、元の位置に戻す。この機能により任意方向の移動を打ち消すことが可能になる。このようなゾル・ゲル変換による形態生成は、真 性粘菌などの生物が行動する際のモデルとなっており、床の形状変化を効率的に行う手法として有効である。本研究では、このような可変形状床を実現するために、以下の研究項目を設定し、段階的(インクリメンタル)に研究を進めてきた。 [Increment 1] 可動モジュールの全方向移動機構と位置検出センサーを開発する。 [Increment 2] 8個の可動モジュールを製作し、ゾル・ゲル変換および、歩行者の移動ができるか確認する。 [Increment 3] 改良された16個の可動モジュールを製作し、ゾル・ゲル変換を行うアルゴリズムを開発し、システム全体を完成させる。 今後は最終年度となるため、システム全体を稼働させ、実施に歩行者が歩行動作を行った時の挙動を分析・評価する。
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