研究課題/領域番号 |
17H00759
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
石田 亨 早稲田大学, 理工学術院, 教授(任期付) (20252489)
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研究分担者 |
松原 繁夫 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (80396118)
林 冬惠 京都大学, 情報学研究科, 特定准教授 (90534131)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 異文化コラボレーション / マルチエージェントシステム |
研究実績の概要 |
基盤研究は、「協働参加者の異文化理解の支援」の課題を中心に実施した。まず協働参加者の活動履歴に対する因子分析を用いて、協働活動を理解する手法を提案し、Wikipedia におけるコンテンツ作成の事例に対して分析を行った。次に、最適均衡機械翻訳を考慮した異文化協働環境を構築する際に、参加者の言語能力の情報を保護するよう、秘匿計算を用いたシステムを初期的に設計した。さらに、異文化協働環境における言語や文化を異にする参加者の提案する概念を理解するために、概念辞書と画像の類似度計算を用いて、文化差のある概念を自動的に検出する方法を実現した。これらの成果は、コラボレーション技術に関する国際会議(CollabTech)などにおいて成果発表した。
実証研究では、まず参加者の協働品質を改善するため、協働支援環境の機能拡張を行った。非母国語での会話においては、発言機会の減少だけでなく、主要意見への簡単な同調が生じる恐れがある。これは、意見の多様性を失わせ、集団意思決定の品質低下を招く。この問題の解決法の一つとして、有効な少数派意見にインセンティブを与える少数派報酬システムがある。そこで、少数派と判定する閾値を調整することで、集団意思決定の品質改善が可能であることを確認し、人工知能学会全国大会国際セッションで発表した。次に、実証の場として、多言語難民支援のための協働環境を初期的に構築した。具体的には、分散環境を制御するマクロエージェントと、分散問題解決のためのマイクロエージェントの2層構成のアーキテクチャからなるマルチエージェントシステムに基づいて、難民向けの文書作成支援システムのプロトタイプを実装した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基盤研究では、「協働参加者の異文化理解の支援」の研究を中心に実施し、おおむね順調に進展している。まず、協働活動を理解するため、参加者の協働パターンを分析する手法を提案し、50件のWikipedia Good Articlesの協働作成活動を分析し、参加者の協働パターンを抽出できることを確認している。次に、最適均衡機械翻訳を考慮した異文化協働環境では、参加者の言語能力などのプライバシーを開示しないようシステムを設計する必要がある。一方、従来のプライバシー保護に関する手法は、複雑なタスクを含む異文化協働環境に適用することが困難である。そこで、マルチエージェントに基づく秘匿計算手法を提案し、初期的なシステム設計を行った。さらに、異文化協働環境では、仮に概念が適切に表現されていたとしても、文化差によりその意味を理解できないという問題が生じる場合がある。そこで、概念辞書を用いて多言語の単語を抽出し、それらの単語を用いて画像を検索し、画像の類似度計算によって文化差のある概念を自動的に検出する手法を提案した。実験によって、異文化協働環境における文化差のある概念を自動的に検出し提示することで、参加者の異文化理解を支援できることを明らかにしている。
実証研究では、まず協働支援環境における参加者の協働品質の改善を着目して研究を行った。集団意思決定の品質改善はマルチエージェントシステム研究における主要課題の一つであり、協働支援環境構築における要素技術として、新たに加えた研究課題である。今後、閾値の自動設定法の開発や実フィールドに即した環境での評価が必要であるが、おおむね順調に進展していると言える。また、研究成果の現場への適用については、多言語難民支援のための協働環境を初期的に構築し、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
基盤研究は、継続的に「協働参加者の異文化理解の支援」の研究を中心に進める。まず、コンテンツの協働作成を適用領域として、これまでに協働参加者の活動履歴に対する因子分析に基づき協働パターンを抽出する方法を提案したが、今後は、協働参加者の貢献を合理的に評価する手法を実現し、協働活動を支援する環境を実際に設計する。次に、協働参加者のプライバシーを保護するためのプロトコルを詳細に設計し、マルチエージェントに基づく秘匿計算手法を実装し、既に提案した最適均衡機械翻訳を用いた異文化協働環境を実現する。具体的には、異文化協働環境におけるタスクを異なるタイプのエージェントに分散し、秘匿計算を用いることで、個々のエージェントが単独で協働参加者の個人情報を取得できないようなプロトコルを実現する。
実証研究は、これまでに提案してきた協働参加者の異文化理解に対する支援方法を協働環境に組み込み、その効果について検証する。また、難民支援など複数の分野における協働支援や多言語対話支援などを実証の場とすることで、研究成果を効果的に多言語コミュニケーションと異文化コラボレーションの現場に適用する。今後、ウィーン大学との研究協力により、現地の言語を理解しない難民が難民申請などの行政文書を理解するための協働支援環境を実現し、オーストリアの難民支援現場に適用する予定である。
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