研究課題/領域番号 |
17H00775
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西岡 純 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (90371533)
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研究分担者 |
黒田 寛 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 北海道区水産研究所, 主任研究員 (30531107)
鈴木 光次 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (40283452)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 西部ベーリング海 / 北極海 / アナディール湾 / オホーツク海 / 鉄・栄養塩 / 海氷融解水 / 春季ブルーム |
研究実績の概要 |
亜寒帯域と極域の物質循環リンケージが起こっているサイトとして、西部ベーリング海と北極海入り口のベーリング海峡の栄養物質を介した繋がりを明らかにするための研究を実施した。今年度は2018年にロシア船を用いて実施したアナディル湾から北極海入り口のベーリング海峡にかけて取得した栄養塩と水塊構造のデータを解析した。その結果、ベーリング海盆域の栄養塩豊富な中層水がアナディール湾底層に張り出して分布していることが示唆された。またベーリング海盆域の栄養塩がアナディール湾を北上して輸送されるメカニズムについて解析を実施した。
亜極域の縁辺海が亜寒帯域へ及ぼす影響として、オホーツク海の海氷が日本周辺の春季ブルーム及ぼす影響を対象とした研究を実施した。具体的には、これまでの研究で明らかになっていた海氷内に取り込まれる粒子態の鉄分が、海氷の融解にともなって海水中に放出された際にどのような化学形態になり、植物プランクトンに利用されるのかどうかを明らかにするための観測および実験的研究にとりくんだ。その結果、海氷内に多量に含まれる粒子態の鉄は、主に生物起源粒子として存在し、海水中に放出された後に、粒子態のまま植物プランクトンの増殖を促進することが明らかになった。
オホーツク海の海氷の融解水と東サハリン海流が混合して高栄養塩・高鉄濃度の水塊となり、太平洋側の沿岸親潮水になっていることが、酸素同位体と塩分の水塊解析を実施することで明らかになった。さらに多くの年のデータを解析した結果、沿岸親潮水に含まれる海氷融解水の含有量には経年的な変動があることが示された。また親潮域沖合の長期データの解析の結果、沿岸親潮水と沖合親潮域間の様々なレベルでの水塊交換が、親潮域全体の植物プランクトンブルームの分布を決めていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で計画していた2つの研究対象のうち(1)季節海氷域であるオホーツク海と隣接する亜寒帯太平洋親潮海域リンケージについて、次の4つの課題を挙げて取り組んできた。1)沿岸親潮水の起源はオホーツク海の海氷融解水なのか?2)沿岸親潮水に含まれる高濃度鉄の起源はオホーツク海氷由来の鉄なのか?3)沿岸親潮水と沖合親潮域間の様々なレベルでの水塊交換が,親潮域全体の栄養物質(栄養塩・鉄)の分布にどのような影響を与えているのか?4)沿岸親潮水と沖合親潮域間の様々なレベルでの水塊交換が,植物プランクトンの分布にどのような影響を与え,親潮域全体のブルームを形成しているのか?3年目を終了した時点で、3)以外については、それぞれ当初目標としていた研究成果が得られている。また、もう一つの研究対象である(2)季節海氷域である北西部ベーリング海と亜寒帯太平洋東カムチャツカ海流域のリンケージについても、当初予定していた東カムチャツカ海流域と西部ベーリング海の物質的なつながりの解明だけではなく、西部ベーリング海と北極海のリンケージにまで研究を展開することができた。これらを鑑み、研究は計画以上に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の展開として、沿岸親潮水と沖合親潮域間の様々なレベルでの水塊交換が,親潮域全体の栄養物質(栄養塩・鉄)の分布にどのような影響を与えているのかについて、これまで集めてきたデータの解析を進めて明らかにしていく。また、海氷内で生息しているアイスアルジーが、海氷融解後に栄養物質とともに放出されることで、春季の植物プランクトンブルームにどのように影響を与えているのかを明らかにしてく。西部ベーリング海と北極海の物質循環リンケージについて、栄養物質が運搬される物理的な過程とともに理解を進める。最終的には、極域の海氷の融解水流入が周辺海域の海洋の水塊構造と,鉄や栄養塩など栄養物質の分布,植物プランクトンの増殖に与える影響を総合的に評価する。
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