研究課題/領域番号 |
17H00776
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 克文 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (50300695)
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研究分担者 |
新妻 靖章 名城大学, 農学部, 教授 (00387763)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バイオロギング / 酸素消費速度 / 加速度 / DLW |
研究実績の概要 |
ザトウクジラを対象とした野外実験において、個体に行動記録計と画像記録計を搭載し、得られたデータを解析することによって、各個体は遭遇した餌分布密度に応じてその場で突進採餌を行う回数を調節し、単位時間あたりの餌獲得量を最大化するように振る舞っていることが判明した。具体的には、餌密度が高く餌分布深度が深くなるほど,クジラはその深度に長時間留まり突進採餌を繰り返していた。同種他個体がいる場合、クジラはその場における採餌を短時間で切り上げていた。これは、自らの採餌によってオキアミの餌密度が減少する効果以上に、その餌パッチの魅力が低下することを見越した適応的行動であると解釈できる(Akiyama et al. 2019)。 シャチを用いた呼気計測実験においては、連続的に呼気を回収することで、短い時間スケールにおけるエネルギー消費量の推定を行った。呼気の回収間隔を40秒と20秒に設定したところ、40秒間隔における酸素摂取量は20秒間隔と比較して1.5倍となった。基礎代謝速度は時間に比例するため、2倍になると予測していたが、それよりも小さな値となった。その要因として、40秒間隔において既に代謝速度を低下させる「潜水代謝」と呼ばれる生理反応があった可能性が挙げられる。 アカウミガメを用いた代謝速度実験においては、地中海のアカウミガメとは異なり、三陸のアカウミガメは水温変化に起因する酸素消費速度変化が小さく、地中海の個体に比べて同じ水温帯における酸素消費速度が高く維持されていることが判明した(Kinoshita et al. 2018 JEB)。サケを対象に流水水槽を用いた酸素消費速度測定実験の結果、東北沿岸河川に産卵遡上する個体群と、東北内陸部の個体群では最大遊泳能力を発揮できる水温帯が異なることが判明した(Abe et al. 2019 JEB)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
魚類)流水水槽を用いてサケとアメリカナマズを用いた酸素消費速度測定実験を行い、得られたデータを解析している。 爬虫類)三陸沿岸海域で捕獲されたアカウミガメとアオウミガメの酸素消費量測定実験をおこなった。15ー25℃の範囲で水温を変化させ、水温によって酸素消費速度がどの程度左右されるのかをしらべている。 哺乳類)カナダのセントローレンス湾およびノルウェーのスカルヴォイ沿岸域におけるザトウクジラを対象とした野外調査で得られたデータを解析している。鴨川シーワールドで飼育しているシャチを用いて、休止中の酸素消費速度を測定する実験を行った。一定期間息をこらえたシャチが、トレーナーの合図によってマスク内に呼気を吐き出す様にトレーニングし、サンプリングした空気の酸素濃度と二酸化炭素濃度を測定した。 鳥類)岩手県船越大島で繁殖するオオミズナギドリに二重標識水を投与し、育雛期の採餌旅行から戻ってきた際に採血することで、標識水の濃度低下を測定し、旅行中の平均代謝速度を測定している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで同様に室内実験や野外調査を進め、統計検定に必要な個体数が集まったものから論文発表を進めていく。シャチの呼気計測においては、40秒間の息こらえによって「潜水代謝」と呼ばれる生理反応があった可能性が挙げられたが、この仮説を検証するために、より短い間隔での呼気回収を目指した訓練を水族館で行っており、3年目にも引き続き検証実験を行う予定である。ウミガメの代謝測定実験においては、アカウミガメについては実験を終了し、論文発表まで行うことができた。3年目は同じ海域に来遊する植物食性のアオウミガメからの野外調査データと代謝測定実験を行い、アオウミガメの結果に合わせ、雑食性のアカウミガメとの比較実験を行う。鳥類の実験としてオオミズナギドリを対象としたDLW実験が昨年度うまく実施できたので、今年度はさらに個体数を増やす実験を行う。魚類の代謝測定としては、これまでサケとアメリカナマズを対象とした測定を終えている。3年目の今年度はウナギ及びマアナゴの代謝測定実験を計画している。
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