研究課題
全ゲノム解読に基づく自然変異高精度高速検出の基本計画達成に基づき、ごく微量な変異原が次世代にもたらすリスク評価を開始した。従来のトリオ解析と独自に開発した完全遠縁交配を組み合わせた「拡張トリオ解析」を立案し、国際環境変異原学会(EMGS2020)、国際放射線防護委員会国際会議(ICRP2020)などで発表公開した。本計画方法を用いて2020年度マウス照射被曝実験を開始した。取り扱いが安全かつ簡便な規制外密封線源Na-22を用いた。マウスへの継代生涯被曝は、感染と密封線源の盗難紛失などを防ぐ意味で、RI管理区域内で実施した。Na-22はガンマ線を放出するためプラスチックケージや臓器による遮蔽効果がほとんどなく、線源量と被曝距離のみに依存し、胎児も含め全ての臓器に均等に被曝させることが可能である。半減期も2.603年と比較的長く、1年経過しても23%程度しか減衰せず年1回程度の線源更新で済む。地下RI実験管理区域内に新たにマウス飼育室を整備し、まず、放射線源のない状態での自然放射線量を測定した。コントロールマウスを飼育する9階一般SPF動物飼育室も測定した。その上で、これまで本研究で自然変異解析に最も多く用いてきたC57BL/6JJcl近交系マウス雌雄ペアを世代ゼロ(G0)として購入しそのペアからの産仔G1マウスを2群に分け、それぞれ、9階一般飼育室と地階RI飼育室にて馴化後、交配開始した。地階RI飼育室では2MBqの規制外密封線源Na-22をラックの中央に置き、マウスケージの中心点を線源から30cmの距離に置くことで、交配、妊娠、出産、離乳、成熟、そしてさらに交配と全生涯にわたって被曝させるとともに、世代を超えて均一に低線量被曝できる交配繁殖計画を立て進めた。9階一般SPF飼育室においても同等の交配繁殖をコントロール実験として行った。本実験解析に用いるマウスはすべて1雌雄G0ペア由来であるため遺伝的背景ももっとも均一な条件となっている。
1: 当初の計画以上に進展している
以下の通り計画を大幅に超えて進んでいる。まず、放射線源を導入する前の飼育室内のバックグランドガンマ線量率を、サーベイメータPDR-111で測定した。測定誤差まで精密に推定するため1箇所につき50回測定した。コントロール群を交配繁殖する9階一般飼育室において7箇所のべ350回測定したところ平均48.9nSv/時(SD=5.3)であった。(ガンマ線ではヒト実効線量Svとマウスなどの吸収線量Gyでは1Sv=1Gyなので以下Gyで表記)地下RI飼育室では11箇所550回測定した結果、43.6nGy/時(SD=4.9)となり、RI管理区域でも他の放射線が飼育室へは影響を全く及ぼしていないことを事前に確認した。ブリーダーからC57BL/6JJcl近交系G0雌雄ペアとその産仔7匹のG1を購入し馴化後、G1の2ペアを地下RI管理区域に移動させ、コントロール群3匹、被曝群4匹、8月28日同時に交配開始した。RI管理区域では、9月1日に2MBqのNa-22を全てのマウスケージの中心から30cm地点に配置し、生涯継代被曝を開始した。線源から30cm地点でのガンマ線量率をPDR-11で4箇所200回マウス導入直前の8月20日に測定したところ、6.02マイクロGy/時(SD=0.47)でありバックグランド値を差し引いて5.98マイクロGy/時のNa-22ガンマ線量率で照射開始した。1ヶ月では減衰がほぼないと計算すると0.144mGy/日、4.31mGy/月の常時被曝に相当する。すでにコントロール群、被曝群ともに、生涯継代被曝したG1ペアから3世代後のG4産仔が得られており、順次、尾の一部からゲノムDNA抽出した。処分したマウス個体は全て個別に-80度フリーザーに丸ごと凍結保存しどの臓器も試料として使えるよう保管している。この低線量率における生涯継代被曝では、通常の放射線被曝実験で用いるコバルト60による急照射と異なり、不妊になることは全くなく、平均週2回の観察においてもコントロール群との違いは認められない。概ね3ヶ月で1世代ずつ継代が予定通り進んでいる。
すでに、C57BL/6JJcl近交系マウスでは、どの仔マウスからも平均14.2個の親にはなかった新たな変異を全ゲノム解読によって検出できることを明らかにした。すなわち、購入したG1マウス7匹だけでもその親G0ペアにはなかった99.5個の新たな変異が検出できる。被曝はこのG1交配とほぼ同時に開始したため、G2マウスは、被曝日数は長くて数日以下でのG1の卵および精子の受精卵から発生分化しており、被曝の効果はほとんどない。一方で、G3マウスは、G2がG1のメスの体内で受精時からすでに被曝し卵割から分化発生してメスでは卵を、オスでは精子を産生するまでの全過程において4.31mGy/月で被曝した受精卵から生まれているので、胎児期20日間と性成熟する2ヶ月余の合計約3ヶ月総線量12.9mGyで被曝した受精卵における変異が検出できる。引き続き常時継代被曝を継続するため、G4マウスでは2倍の26mGy継続被曝した細胞系譜における変異蓄積が検出できる。2021年3月までにG4マウスがすでに得られているので、2021年度にはコントロール群と生涯被曝群それぞれのG4マウス8匹ずつその親ゲノムとともに全ゲノム解読し、コントロール群8匹から検出される期待値114個と比較する。もし、差がなければ、いかなる変異原からも閾値が存在することを世界で初めて示すデータとなる。もし有意に変異が誘発されていれば、その1/10、1/100の被曝ではどうか、閾値の存在も含め精査できる。そのためのさらなる外部資金獲得を目指す。ちなみに1仔マウスから自然変異14.2個検出できるのは全く蓄積のない親子間直接比較であり、本研究ではG0からG4まで自然変異を蓄積しており、上記の通り、ガンマ線誘発変異ももし生じていればG2マウス受精卵以降常時継代生涯被曝させながら拡張トリオ交配によって蓄積されているため、継代すればするほど誘発変異の効果も蓄積されて検出精度が上昇する独創的かつ高感度な変異検出系となっている。
日本遺伝学会評議員/JSPS産学協力ゲノムテクノロジー第164委員会委員/JSPS産学協力放射線の利用と生体影響第195委員会委員/放射線影響研究所科学諮問委員会委員アウトリーチ活動:東京都立日比谷高等学校「What is mutation? Genome editing: pros and cons.」英語にて実験体験学習講座」2020年12月15日
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Journal of Cell Science
巻: 133 ページ: jcs243972 1-20
10.1242/jcs.243972
Genes to Cells
巻: 25 ページ: 124-138
10.1111/gtc.12746
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