研究課題/領域番号 |
17H00790
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
末包 哲也 東京工業大学, 工学院, 教授 (30262314)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 二酸化炭素地下貯留 / 多孔質 / 混相流 / X線CT |
研究実績の概要 |
二酸化炭素地下貯留技術に関連する多孔質内流動現象の解明において,多孔質内混相流に対する理解が必須である.本研究では従来の体積平均的な現象論的な記述から脱却し,多孔質の空隙スケールでの流動現象を理解した上での新規学問体系の構築を目指している.本年度はこの目的を達するために必要となるツールとして新規X線CT装置の導入を行った.これにより,高空間解像度,高速撮像が可能となり,また,造影剤の添加を抑制することが可能となった.二酸化炭素地下貯留において溶解トラップへの移行に関して重要となる密度差自然体流に関して,初期界面厚さが滞留開始時間に与える影響を調べた.初期界面厚さに比例して,滞留開始が遅れることを見出した.従来,分散現象は強制対流に対してモデル化が行われており,自然対流ではモデル化の例がない.そこで,自然対流における分散と物質輸送の関係について新しい数理モデルの構築を行った.第二に非混和性二相流に対して,粘性比と毛管圧に関する流動様式に整理を行った.従来の研究では2次元での解明にとどまっているものを3次元へと拡張した.また,空隙スケールでの現象理解により,キャピラリーフィンガリングからヴィスコスフィンガリングへと遷移する際に,注入流体が侵入する空隙の径にはほとんど変化がないもののスロート径に明確な遷移があることを見出した.これらの遷移過程において,侵入流体の飽和率,フィンガー数,3次元構造,フラクタル次元などが変化する様子を示した.これらの研究を通じて3次元画像処理アルゴリズムについて検討を行い,画像から多孔質の空隙とスロートを抽出する手段として,ウォーターシェッドを用いると高精度・低計算コストで達成できることを見出した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた新規X線装置の導入が完了し,期待していた空間解像度,スキャン速度が達成できることを確認した.高空間解像度計測により,多孔質内分散現象の解明につなげるとともに,スキャン画像を基にした多孔質構造直接数値解析へと発展させる予定である.本年度の重要な成果として,多孔質内自然対流による物質輸送モデルの構築を行った.従来,分散現象を考慮したモデルは存在せず,これを含めたモデル化は画期的な成果であるといえる.また,非混和性流動に関する流動様式を3次元流動に対して初めて整理した.以上のことから研究はほぼ当初の予定通りに進捗していると判断することができる.
|
今後の研究の推進方策 |
二酸化炭素地下貯留においてCO2注入時のCO2プリュームの広がりはその後のCO2の移動・溶解・対流に影響を与えるため非常に重要なパラメーターである.本年度はこのCO2プリュームの広がりに影響を与えるヴィスカスフィンガリングに特に注目して研究を進める.本年度までの研究により,混和性二相流のヴィスカスフィンガリングの3次元構造を明らかにしてきている.CO2による原油増進回収などの応用では,CO2と原油が化学変化し,粘性が変化する場合が想定される.また,通常のCO2-水系では両者は非混和性である.そこで本年度は化学反応を伴う粘度変化がヴィスカスフィンガリング発生に与える影響を調べるとともに,フィンガーの成長の促進や抑制機構を検討する.また,CO2と水,油は密度が違うために,水平方向に注入した場合,重力により上下への分離が発生する.フィンガリン現象と重力分離の相互作用は非常に複雑な現象であり,可視化が極めて困難であるため従来は数値解析による現象再現にとどまっている.本研究ではこの3次元可視化による現象理解を試みる.非混和性二相流に対しては,流動様式の整理を行い,広い粘性比,キャピラリー数に対して様式線図を構築し,飽和率,フラクタル次元,占有ポア分布,スロート分布などを定量的に明らかにする.さらに,デジタルロックフィジックスの構築に向けて,高精度撮像画像を基にした数値シミュレーションとの融合を進める.
|