研究課題
二酸化炭素地下貯留技術において,岩石などの多孔質構造と混相流動の関係を把握することは非常に重要な課題である.本年度は,岩石多孔質の空隙構造を解像したマイクロフォーカスX線CT画像から,混相流動現象を把握できるインベージョンパーコレーション理論(IP)に基づいた数理モデルの構築を行った.空隙構造に対して流体力学的な数値シミュレーションを直接行う方法に比べて,計算コストを大幅に低下させることができる.代表的な砂岩やモデル多孔質である充填層のCT画像からポアネットワーク構造を抽出するアルゴリズムを構築した.画像の空隙部分を抽出し,それを個々のポア部分,ポアとポアを結合するスロートに分割し,それらの体積や面積などの統計量を取得することができる.ポアの大きさがスロート径や配位数と強く関係しており,大きいポアから延びるスロートは太く,配位数も多い傾向にあることが確認できた.単純格子ではスロート径は完全にランダムとなり,隣接するポアの特性に依存しない.また配位数も一定となるので,この点で実際の多孔体とは大きく異なる.次に,これらのポアネットワーク構造に対してIPを実際に適用し,多孔質からの排水過程の数値シミュレーションを行った.浮力等により発生する圧力勾配の影響を考慮し,毛管力支配から圧力支配にわたる領域での流動の特徴を明らかにした.合わせて残留クラスターの特徴を評価した.毛管圧支配の場合,クラスターのサイズ分布はIP理論で予想されているようにべき乗則となり,フィッシャー指数も理論値の2.189に近い値となった.フィッシャー指数の普遍性が実岩石多孔質においても成立している.ボンド数を上昇させると存在可能なクラスターの流動方向の高さが相関距離程度に制限されるために,フィッシャー指数が上昇する.
2: おおむね順調に進展している
二酸化炭素地下貯留において,地下に注入されたCO2を浮力に対してトラップするメカニズムは物理トラップ,毛管圧トラップ,溶解トラップ,鉱物固定化というように時間的に進展する.現在までに,これらのトラップメカニズムについて空隙スケールで発生している現象解明についてはほぼ完了することができた.また,鉱物固定化については,地下での鉱物化だけでなく,地上装置においてCO2分離とアルカリ廃液処理を結びつけることで直接的に鉱物固定化できることを明らかにした.比較的小規模な単一企業のスケールで実施可能であるために,早期実用化が可能である技術である.これらの実験的研究が完了しつつあることを受けて,本年度は,特に,数値シミュレーションと数理モデルの構築において大きな進展があった.高解像度X線CT画像からポア構造を解析する手法を確立し,ポアネットワーク構造を直接的に評価できるようになった.これに対してIPを適用することにより,比較的簡易に多孔質内混相流動現象を再現できるようになった.流体力学モデルと直接的に解く数値シミュレーション手法も順調に開発を進めており,特に,多孔質内の分散現象の解明において大きな進展があった.以上のことから研究はほぼ当初の予定通りに進捗していると判断することができる.
二酸化炭素地下貯留の大規模導入を阻害する要因として,浮力に伴うCO2の漏洩の懸念がある.岩石多孔質内部におけるCO2のトラップについてはいくつかの機構が順次に働くと思われているが,学術基盤としての成立には至っていない.最終年度は,CO2トラップメカニズムの現象理解を推し進め,CCSに関する混相流動の学術基盤を確立する.多孔質内流動現象のモデル化には,多孔質空隙構造の複雑さや計測の困難性に伴い,従来は体積平均化されたダルシーモデルによる記述が行われてきた.このモデルは現象論的な記述であり,本研究では空隙スケールの流動現象を解明することにより,数理モデルの確立を行う.実験的研究によるトラップメカニズムの解明はほぼ完了し,モデル化が終了しつある.最終年度にはこれらの個々の要素をくみ上げてCCSに関する混相流動モデルを確立する.最終年度は直接数値シミュレーション手法の開発を中心として推進する.TSUBAMEスーパーコンピューターの能力を最大限に生かし,大規模GPUコンピューティングを実施することにより,多孔質内混相流に関する諸現象を解明する.具体的には,多孔質内混相流において非湿潤相が分断するスナップオフ現象やこれに伴うエネルギー散逸のプロセスを解明する.また,多孔質内におけるフォーム流動や新しいラミネの生成プロセスについても解明を行う.これらの現象解明によりCCSに関する学術基盤整備にとどまらず,土壌汚染防止,燃料電池ガス拡散層など多孔質流動に関した広範な分野への波及を促す.
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