研究課題/領域番号 |
17H00801
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大友 順一郎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (90322065)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 低炭素社会 / 燃料電池 / イオン伝導体 / 酸化還元反応 |
研究実績の概要 |
エネルギー貯蔵型燃料電池の開発を目的とし、令和元年度は、これまで検討を進めてきた基礎デバイスとなるエネルギー貯蔵型燃料電池の高性能化を試みると共に、提案するシステムの評価を行った。パルスレーザーデポジション法による積層電解質薄膜の成膜と輸送特性の観測結果を基に、発電効率向上を目的として、イオン・電子輸送特製を向上させたタングステン酸ランタン(LWO)とイットリウムドープジルコン酸バリウム (BZY)を積層した固体電解質膜を用いた積層型セルの開発を推進した。アノード支持型セルの作製と並行して、これらの各キャリアの輸率を用いた計算に基づく積層セルの設計とモデル計算を行った。モデル計算の結果、積層電解質膜の最適化を行うことで理論発電効率向上の結果が示された。この計算結果を基にアノード支持の積層型セルの作製を行い、積層型セルによる発電実験を行った。積層型セルの起電力はBZY単層セルの起電力を上回り(0.95 V→1.01 V)、積層化の優位性を支持する結果が得られた。この成果は、ホール伝導をLWO膜で抑制することにより得られたと考えられる。続いて、鉄ドープカルシウムチタネート(CTFO)を酸素キャリア粒子に用いた水素エネルギー貯蔵システムについて熱力学と反応速度論の観点から評価を行った。水素エネルギー貯蔵システムのシステム効率と貯蔵プロセスの検討を通じて、更なる効率向上に向けて、酸化還元反応の反応速度向上と共に吸発熱バランスを満たす材料選定の重要性が示唆された。一方、本システムの貯蔵コストは従来の水素圧縮貯蔵システムのコストと比較して低く、酸化鉄を用いた本システムが大きな優位性を有することが示された。今後は反応器の詳細モデルを検討することで、システム全体の効率向上と最適化を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、エネルギー貯蔵型燃料電池の基礎デバイスの設計と実セルの開発で進展があった。アノード支持型セルの電極層の改善(電極触媒の担持量、粒径、空孔率の空間的な傾斜配置)により安定かつより高い出力密度での発電を行うことができた。発電実験の成果は、英文誌に掲載された。さらに、電極-電解質界面構造の安定性を向上するために、新たな中間層の検討についても進展があった。すなわち、プロトン伝導性を有するランタンドープセリア (LDC)を中間層に用いることについて検討を進め、異相界面間のカチオンの拡散抑制の効果が観測された。また、発電効率の理論計算において、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の発電時の典型的な条件である250 mA/cm2の電流密度に対し、理論発電効率は、膜厚10μmの単層BZYセル、単層LWOセル、LWO-BZY積層型セルについて、それぞれ、58%、79%、90%の値が得られた。従って、積層型セルの優位性をモデル計算によって示すことができており、上述の中間層の改善によりさらに高効率かつ高出力の発電が期待される。エネルギー貯蔵型燃料電池のシステム評価についてもシステム全体の効率評価とコスト評価について進展があった。今回のシステム設計では充放電の総合効率は5割程度であるが、貯蔵タンク(酸素キャリアの反応器)のコスト低減を示すことができ、金属酸化物を用いた本システムの優位性が示唆された。酸素キャリアについても、従来の鉄系キャリアをカルシウムで改質した材料に加え、マンガン系キャリアの開発についても進捗があった。以上、燃料電池デバイスとシステム設計の観点から、総じて本研究の目的に対して有効な成果が得られたと判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度は、エネルギー貯蔵型燃料電池の基礎デバイスの完成とシステム全体評価を実施する。LDCを中心とした中間層を検討し、BZY-LDC-LWOなどの積層構造を有する積層型セルを完成させる。また、水蒸気電解では、アノード側酸素分圧が向上するため、LWO膜でのホール抑制効果がより顕著になることが予想され、最終年度でその効果について実証する予定である。さらに、イオン、電子、ホール、および酸素空孔等のキャリアの詳細な輸送特性を考慮した数値モデルを構築し、高性能デバイス設計に展開する。酸素キャリア(水素生成用の金属酸化物粒子)についても鉄系およびマンガン系など種々の材料の酸化還元特性を観測し、反応速度と粒子の構造変化の情報(寿命)をシステム評価にフィードバックする。システム評価では流動層反応器のモデル化にも取り組む。以上の検討を通じて、提案するシステムの実現可能性を検証する。 本手法の構築により、金属酸化物を酸素キャリアに用いたエネルギー貯蔵システムの評価を行うと共に、システムと材料最適化の双方向の連成評価によるキャリア材料の探索ツールとしての活用が可能になる。粒子寿命や反応速度およびシステムコストについても定量的な評価を行うことで、適切な材料選択に向けた知見が得られる。本手法の活用事例として、新たな水素製造システムへの適用にも取り組む予定である。
|