研究課題/領域番号 |
17H00803
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
山口 有朋 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究グループ長 (90339119)
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研究分担者 |
佐藤 修 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (20357148)
三村 直樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (50358115)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バイオマス利活用 |
研究実績の概要 |
本研究では、非可食性バイオマスであるリグノセルロース(木質バイオマス)のセルロース・ヘミセルロース・リグニンをすべて有用化学物質に変換する技術開発を行う。木質バイオマスを反応物として担持金属触媒を用い、低い反応温度でセルロース・ヘミセルロースの水素化分解による糖アルコールへの変換、続いて、より高い反応温度でリグニンの分解反応による芳香族化合物への変換を行う。リグニン分解反応後には、担持金属触媒のみを固体として回収し、触媒を再利用する。本研究では、両反応に高い活性を示す新規触媒の開発と全体のプロセス設計を行う。本研究の実現により、木質バイオマスの全成分を効率的に化学品原料へと変換可能となり、炭素循環社会の実現に貢献できる。 以下により具体的に説明する。セルロース・ヘミセルロースは、多糖類であり、加水分解(糖化)による糖を経由した有用化学物質への変換反応が可能である。一方、リグニンは芳香族化合物がランダムに重合した高分子であるが、分解による有用化合物製造は現状では非常に難度が高い。本研究では木質バイオマスの成分を分離する前処理過程を省き、固体触媒(担持金属触媒)を用い木質バイオマスを反応物として反応条件を逐次的に変えて変換反応を行い、すべての成分を有用物質へ変換する。セルロース・ヘミセルロースの水素化分解反応により糖アルコール、さらにリグニンの分解反応により芳香族化合物への変換反応を多段階の反応条件で行い、木質バイオマスを有用物質へ変換する触媒反応技術の開発を検討する。さらにリグニン分解反応後には、固体触媒のみを固体として回収し、触媒の再利用を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
木質バイオマスを反応物として、まず木質バイオマスに含まれるセルロースおよびヘミセルロースを糖アルコールに変換することを検討し、スギに炭素担持白金触媒(Pt/C)と水素を加え、反応温度190 ℃で反応させることにより、ソルビトールやキシリトールなどの糖アルコールに変換可能であることをいままでに明らかにした。固体残渣として、担持金属触媒とリグニンが残存する。その固体残渣(主に担持金属触媒とリグニン)を400 ℃で処理することにより、リグニンの分解反応が進行し、ベンゼン、フェノール、トルエン、エチルベンゼンなどが得られた(ACS Sustainable Chemistry & Engineering, in press.)。2018年度は、リグニンの分解挙動を明らかにするために、リグニンモデル化合物の分解挙動を明らかにした(Waste and Biomass Valorization, in press.)。この結果により超臨界水中で担持金属触媒を用いたリグニンの解重合反応の研究進捗に貢献できた。
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今後の研究の推進方策 |
木質バイオマスそのものを反応物としてセルロース・ヘミセルロースの水素化反応(ステップ1)を行うと、糖アルコールが生成する。そのときリグニンは、ほとんど固体として残存するが、リグニンの部分的な水素化反応が進行していると考えられる。2019年度は、リグニンの詳細な構造解析、結合割合の決定を行い、リグニンの分解反応(ステップ2)における生成物、収率への影響を解明する。 ステップ2でリグニンの分解反応を行うと、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼンが検出される。その他の生成物として、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー:おおよその分子量が決定可能な装置)を用いて、リグニンの分解物の分子量を測定すると、約300程度(芳香環が3から4個結合した分子)のピークが観測される。本研究では、ステップ2でのリグニン分解物の同定をさらに詳細に行う。 一方、ステップ2と同じ条件で(ステップ1を経由しない)木質バイオマスを反応させると、フェノール、クレゾール、エチルフェノールが多く検出される。この結果は、ステップ1による水素化反応により、リグニンのメトキシ基が減少していることを示唆している。NMR等を用いて、生成物を詳細に解析することにより、ステップ1における水素化反応の影響が理解する予定である。
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