研究課題/領域番号 |
17H00806
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
吉本 敦 統計数理研究所, 数理・推論研究系, 教授 (10264350)
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研究分担者 |
加茂 憲一 札幌医科大学, 医療人育成センター, 准教授 (10404740)
木島 真志 琉球大学, 農学部, 准教授 (10466542)
光田 靖 宮崎大学, 農学部, 教授 (30414494)
上野 玄太 統計数理研究所, モデリング研究系, 准教授 (40370093)
久保田 康裕 琉球大学, 理学部, 教授 (50295234)
冨田 哲治 県立広島大学, 経営情報学部, 准教授 (60346533)
楠本 聞太郎 琉球大学, 理学部, 博士研究員 (90748104)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 環境経済 / 生態系サービス / 離散最適化 |
研究実績の概要 |
本研究では,意思決定過程に対し,生態系サービスの生成過程に見られる基本的なメカニズム(拡散・移動)を的確に捉えた最適化システムを構築し,生態系サービスの経済評価と持続的供給を可能にする資源利用の最適な時空間的制御の実現に向けた経済・政策分析を行う。 宮崎県綾町の日向夏農園において、生態系サービス(送粉サービス)の指標としてニホンミツバチ訪花数を調査し、景観構造との関係を統計モデルにより解析した。その結果、周囲に天然林が多く、また農地および草地が多い日向夏農園において、ニホンミツバチ来訪数が多くなる傾向が明らかとなった。日本に分布する動植物について、在来種・外来種の空間分布を収集し、生物多様性保全と外来種駆除のエフォート配分の最適化分析に必要なデータセットを整備した。また、在来植物のデータセットを用いて、空間的保全優先度分析を行い、最適なパラメータ設定(種の重みなど)について検討した。その結果、経験的によく用いられる種の保全優先度(絶滅危惧ランク、固有性、有用性)は、保全優先地域分析のアウトプットへの影響が極めて小さいことが明らかになった。 地理情報システム(GIS)を用いたデータベース構築の準備を進めた。具体的には、入手可能な既存のGISデータについての情報を収集し、データベース構築のための課題を抽出した。また、空間統計モデリングのための分析手法の基盤となる理論開発を行った。 様々な森林生態系サービスの持続的な供給を念頭に入れた、効率的な間伐時期・頻度及び主伐の時期を探索できる森林管理ユニットレベルの最適化モデルを構築した。また、時空間最適化モデル構築に向けて、各林地・農地における施業・営農法連結を考慮できる離散最適化モデルを構築した。このモデルでは隣接するユニットの集約に最大サイズ制約を課し、施業・営農法の連結を仮定するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度、検討した森林管理ユニットレベルの最適化モデルを応用することで、各管理ユニットの状態に応じた、最適な管理計画が明らかにできる。最終的に構築するモデルは、数千~数万といった森林管理ユニットから構成される森林ランドスケープレベルの管理空間配置を最適化できる離散最適化モデルであるが、予め候補として生成する「管理計画・施業計画」がモデル構築の重要な課題の1つである。森林管理ユニットをクラス分けし、各クラスに対して上記のモデルを応用することで、各クラスごとに適応可能な「管理計画・施業計画」をあらかじめ準備できることが期待できる。また、地理情報システム(GIS)を用いたデータベースについては、コリドー最適化において必要な隣接行列の構築に向けた課題を明らかにした。隣接行列は、対象地区の地理情報をまとめたシェイプファイルに対して、ArcGISあるいは、統計ソフトのRを適用することで作成できるが、シェイプファイルが適切に作成されていない場合(例えば、ポリゴン間の境界線が共有されていない、あるいは、重複している等)、隣接行列の作成が失敗し、最適化モデルを用いた結果が不連続なコリドーになることが確認できた。また、在来種・外来種の空間分布分析などについては、予備解析が可能なデータセットを初年度で準備することができたので、概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、在来種・外来種の移動・拡散に関して、沖縄島北部を対象地域とし、侵略的外来種の駆除努力と生物多様性の保全優先地域との空間的な一致性を分析する。具体的には、多分類群(植物、脊椎、無脊椎)の種レベルの空間分布情報を用いて、空間的保全優先度分析を行い、潜在的な保全優先地域を特定する。空間明示的な個体群動態モデルを用いて、侵略的外来種(マングース)の時空間動態をモデル化し、各場所における動態パラメータ(侵入率、生存率)を定量する。それらを脅威レイヤと定義し、生物多様性の保全優先地域との空間的な一致性を評価する。それらの結果に基づき、今後の保全努力量の最適配分について議論する。 次に、経時的な空間制約に対する最適化について、管理ユニットレベルの最適化システムを応用する上での課題を明らかにし、モデルの改良・拡張可能性について検討する。 また、地理情報システム(GIS)を元に作成する隣接行列に関しては、入手可能なシェイプファイルについて、地理情報システムを有効に活用し、隣接関係を効率的に確認する作業プロセスを検討・構築する。また、フィールド調査やGISで得られた地理情報をモデルに組み込むことで、モデルの精度の向上を図る。具体的には、GISで得られた位置情報に基づく土地利用等の隣接情報を用いた空間相関の導入などが考える。 離散最適化モデリングについては、集約に対する上限・下限制約を課したモデルに拡張する。また、コリドー形成を一つの集約とする空間制約最適化も可能にし、拡散・移動を的確に捉えた最適化システムの構築を目指す。
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