研究実績の概要 |
音場再生システムの総合的な性能に関して,以下の4条件を満たすことが重要であるとの仮説を立てて,それらの向上を試みてきた。A) 何らかの物理的な拠り所があること,B) 受聴者の存在などの不可避な外乱に対して頑健であること,C) 付加的な演出を受け入れる余地があること,D) 映像情報との親和性が高いこと,の4条件である。研究計画書における「工学的な性能」は A), B) に対応し,「芸術的な表現力」は C), D) に対応する。 A), B) に対応した項目として,鋭指向性マイクアレイで収録した信号に対して,高次アンビソニックスやビームフォーミングなどの適用を試みてきた。波面の観測による物理的検証,被験者の主観評価を通した検証を併用して行ってきた。結果として,物理的な性能に有意な差異は認めがたいが,コンテンツの内容との相性は存在することが明らかになった。また特にC)に対応して意図的な操作を導入する場合には,収録時に信号の性質を限定するビームフォーミングが有効であることが明らかになった。さらにD)に関して,360度円周映像を導入し,特に没入感への貢献は大きいことも明らかになった。 再生システムを音響材料の性能測定に利用する課題に関しては,簡易的な24チャンネルよりも,再生音場を閉空間とし,さらに多数のチャンネルを用いた場合に安定した結果が得られる傾向が明らかになった。 今年度は,方向別のインパルス応答の畳み込みをベースにした,C)と対応する演出との相性の良い再生手法の開発にも注力した。インパルス応答にも上記と同様の最低限の信号処理を施し,さらに代表的な音源である楽器の指向性を模した測定手法の開発などを行った。音質的には高い評価を得る可能性が明らかになっており,引き続き様々な観点からの検討を行い,総合的に高性能な再生システムを実現したい。
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