研究課題/領域番号 |
17H00818
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
芦田 均 神戸大学, 農学研究科, 教授 (90201889)
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研究分担者 |
榊原 啓之 宮崎大学, 農学部, 教授 (20403701)
越阪部 奈緒美 芝浦工業大学, システム理工学部, 教授 (30554852)
村上 明 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (10271412)
赤川 貢 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (70405356)
石井 剛志 神戸学院大学, 栄養学部, 准教授 (50448700)
山下 陽子 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (10543796)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ポリフェノール / 生体調節機能 / 標的分子 / 生体リズム / 体内動態 |
研究実績の概要 |
1)生体リズムを考慮した体内動態解析:①実験動物を用いて摂取時刻の影響を調べる至適な食餌組成を見出した。②脂質代謝調節に関与する血中GIP含量と、十二指腸でGIP発現に関与するGPR120の発現が日内リズムを刻むことを見出した。③生体異物による生体リズムの乱れをポリフェノールが改善することを肝細胞で見出した。 2)体内標的分子基盤の解明:①ポリフェノール付加タンパク質の解析から、標的タンパク質としてプロテインジスルフィドイソメラーゼを同定し、ポリフェノールがこの酵素の活性を阻害することと、その結合機構を解明した。②高選択的アフィニティー精製法を利用した網羅的プロテオミクス解析から、ヒト培養細胞からカテキン類およびテアフラビン類と相互作用する複数の標的タンパク質を分離・精製した。 3)組織間クロストークを考慮した機能性解明: ①カテキンオリゴマー画分またはカテキン四量体であるシンナムタンニンA2をマウスに経口投与した直後の脳におけるノルアドレナリン(NA)動態を質量イメージング解析し、青班核・脳幹・視床下部にNAシグナルを見出した。またNAは青斑核から脳各部位に投射されたものであることが判った。②腸管から分泌されるGLP-1のアンタゴニストが、カテキンオリゴマー画分による肝臓のAMPK活性化を阻害することを見出した。 4)ナノモル濃度域の新たな機能性解明:①代謝系への作用については、1)8-プレニルナリンゲニンがマウスの脂質代謝を改善することを見出し、2)ケンフェロールが血糖値を抑制する可能性を見出した。②ストレス応答系の解析に関しては、1)培養細胞系で、ケルセチンを内包させた細胞外小胞(EV)が、内包させない場合に比べマクロファージ細胞への取り込み率が遥かに高いことを、2)動物実験系で、ラットに対する単回胃内強制投与で、ケルセチンがピコモル濃度域でEVに内包されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)生体リズムを考慮した体内動態解析:これまでに以下のことを見出した。①摂取時間の違いによりポリフェノールの体内動態と機能性を変化させること。②ポリフェノールの体内動態と関連して血中ホルモンが生体リズムを刻むこと。③生体リズムの乱れをポリフェノールが改善できること。④ポリフェノールの機能性発現に最適な摂取タイミングがあること。 2)体内標的分子基盤の解明:①ポリフェノール標的タンパク質を探索する複数の解析技術を確立し、カテキンなどのポリフェノールの標的タンパク質を見出すとともに、結合機構の解析に成功した。②網羅的なプロテオミクス解析を実施し、ポリフェノールの標的タンパク質の二次元マップを作成した。 3)組織間クロストークを考慮した機能性解明:①難吸収性ポリフェノールであるシンナムタンニンA2が、腸脳相関を介して中枢神経系に作用し、血流改善をもたらす作用機構を解明した。②シンナムタンニンA2は、腸管ホルモンであるGLP-1分泌促進を介して血管機能改善に繋がることを見出した。 4)ナノモル濃度域の新たな機能性解明:①ナノモル濃度域で代謝系への効果を発揮するポリフェノールの探索試験を完了した。②筋肉細胞でのグルコース取り込みを促進する化合物を複数見出し、その作用機構解明と動物実験での検証に成功した。③ごく微量で脂質代謝を改善する化合物も見出した。③ストレス応答系の解析に関しては、細胞外小胞(EV)に内包されたケルセチンが効率よく細胞へ取り込まれることを実証し、経口投与したケルセチンがラット血清中でEVに内包されることを見出した。 *さらに、当初計画になかったヒト試験を2回実施し、クロダイズの摂取が一酸化窒素の産生と酸化ストレスの軽減を介して血管機能を改善させることを実証した。したがって、総合評価として、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1)生体リズムを考慮した体内動態解析:これまでの成果を基盤として、①体内時計の乱れを改善するポリフェノールの作用機構解明と、②ポリフェノールが機能性を発現する最適な摂取時間の提言を行う基盤データを蓄積する。③さらに、ポリフェノールの体内循環量が尿中代謝物から予測可能か否かをメタボリックプロファイリングで検証することを試みる。 2)体内標的分子基盤の解明:①標的タンパク質へのポリフェノールの結合によってもたらされる細胞応答と機能性発現機構の解析を実施する。②標的分子の探索を動物実験レベルでパク質の解析を実施し、②上記1)の体内動態との整合性を鑑みつつ、それぞれの機能における真の標的タンパク質の解明を行う。③標的タンパク質に対しては、結合様式、結合定数、付加部位、ならびに修飾構造を解析する。 3)組織間クロストークを考慮した機能性解明:難吸収性ポリフェノールであるプロシアニジンの腸脳相関研究を進展させ、空間記憶・作業記憶に対する影響について位置認識試験・新奇物体試験を用いて評価を行う。②社会的ストレスモデルマウスを用いて、低用量のプロシアニジンが、ストレス耐性を誘導するかどうかについて検討する。 4)ナノモル濃度域の新たな機能性解明:①1)の体内動態を鑑みて、ナノモル濃度域で見出した機能性と体内リズムの関係を明らかにする。②2)の標的分子解明と連動させて、ナノモル濃度域で機能するポリフェノールの標的分子を明らかにする。③ストレス応答に関しては、細胞外小胞に内包されたケルセチンが、そうでないフリーの状態に比べて機能性が強化されるのか、という課題について、特に抗炎症作用に着目して取り組む。また、細胞種によって取り込み効率が異なることが想定されるので、様々な組織の培養細胞を用いて取り込み効率を検討する。 *上記1)から4)の研究を実施することで、本課題を完了させる。
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