研究課題
1)新規に導入した温度プロファイラを東京都心域(飯田橋)に設置し,東京西郊(西東京市)のタワーには温度ロガーを取り付けて,接地層から都市境界層におよぶ気温鉛直分布の連続観測を開始した。現在はデータの蓄積段階であるが,寒候期晴天弱風の夜半から早朝にかけて,都心域でも高度200~300m付近に顕著な逆転層が頻繁に現れ,日中にも高度700m付近を中心にやや安定な層が認められた。2)東京タワーの気温データを用いて夜間の都心域における都市境界層の季節変化や時間変動などを統計的に解析し,冬季夜間には高度200m以上に強い安定層がある場合や,地上から250mまで一様に安定となる場合などが認められ,構造の多様性とともに都心においても接地層は安定な場合が少なくないことが指摘された。3)広域METROSなどの稠密気象観測から得られた関東地方における夏季の気温と気圧データに対して主成分分析を行い,両者の時空間変動にみられる特徴を解析した。その結果,気温場と気圧場それぞれの上位3主成分には,海陸風循環,ヒートアイランド現象,北東気流に関係した空間分布が認められた。また,晴天日の気温と気圧の主要な日変化パターンには,海風循環と関連する内陸部の高温低圧と,ヒートアイランド現象に伴う高温低圧が認められた。4)自治体等の稠密雨量観測網による時間降水量データを使用して降水の広がりに着目した短時間強雨の統計的解析を行い,都区部北部から埼玉県東部では局地的な強雨発現割合の高いことが示された。また,短時間強雨の予測に関連し,短時間強雨発現に数十分先立つ収束域の形成や可降水量の増加が大気汚染常時監視測定局等の稠密気象観測とGPS可降水量観測から確認された。5)沿岸の気温分布形成に関し,東京湾の盤洲干潟周辺を対象に,干潟の干出・冠水や風系を考慮した観測を行い,海風吹走時にも影響は干潟の近傍に限定されることを示した。
2: おおむね順調に進展している
東京都区部西部に設置予定であった温度プロファイラ(研究分担者所有)に不具合が見つかったため,平成29年度中の設置は見送った。ただし,すでに修理の目途が立ったため,平成30年秋までの設置に向けて準備を進めている。既設置の温度プロファイラは,データを携帯回線によってリアルタイムで取得できるようにし,もう一台も同様の機器を装備することから,データの取得・解析の効率が格段に向上し,随時のモニタリングが可能となる。既設置の温度プロファイラでは順調にデータが取得できており,データを共有して予察的な解析に着手している。広域METROS等の稠密気象観測データは予定通り維持管理がなされ,順調にデータが取得されている。また,自治体等の気象観測データも順次入手して解析に使用できる。これらを使用した解析として,研究実績に挙げた成果等が得られており,特に夏季日中の気温分布と気圧分布との関係や冬季夜間における大気下層の昇温に関する考察では興味深い結果が得られている。以上の点から研究は概ね順調に進展していると判断される。
平成29年度に設置した東京都心域(千代田区飯田橋)の温度プロファイラや東京西郊(西東京市)のタワーに取り付けた温度ロガー,および南関東の約130箇所における広域METROSの観測を継続し,鉛直方向ならびに水平方向の気温観測データを蓄積する。さらに東京大学地震研究所の連携研究者や東京都環境科学研究所の連携研究者の協力を得て, MeSO-netの気圧データや大気汚染常時監視測定局(常監局)等による高時間分解能の気象観測データを収集し,データベース化する。また,修理の目途が立った研究分担者所有の温度プロファイラを,平成30年秋までに都区部西部の都立高校屋上に設置し,都心から郊外に至る気温の鉛直分布を長期間連続的に観測する。これまでに,また今後に蓄積される観測データを研究組織で共有し,以下の解析を進展させる。すなわち,都市気温分布の詳細構造と上空の気温鉛直構造との関係として,従来にない長期間連続的なデータによる都市境界層構造の日変化や季節変化の実態把握,ならびに都区部における夜間の気温急変域と都心域の境界層構造との関係や,海風・陸風吹走に伴う都市境界層構造の変化などを調査する。夜間の陸風風向に沿う東京西郊一都区部西部一都心域の気温鉛直分布の長期間連続的な観測は,境界層構造の多様性・変動性の統計的な解析を可能にする画期的な観測である。また,短時間強雨と上空の気温鉛直構造との関係について,今年度は主として事例解析を行い,その後のデータの蓄積によって統計的な解析を行って,境界層における安定度の時間変化に短時間強雨の発現に先立つシグナルが得られるか検討する。
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