研究課題/領域番号 |
17H00838
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
高橋 日出男 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 教授 (40202155)
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研究分担者 |
三上 岳彦 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 客員教授 (10114662)
森島 済 日本大学, 文理学部, 教授 (10239650)
赤坂 郁美 専修大学, 文学部, 准教授 (40574140)
菅原 広史 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 応用科学群, 教授 (60531788)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 都市気候 / 都市ヒートアイランド現象 / 気象観測 / 都市境界層 / 安定層 / 逆転層 / 海陸風 |
研究実績の概要 |
東京都心(千代田区)と都区部西部(杉並区)に設置した温度プロファイラや,東京西郊(西東京市)のタワーに取り付けた温度ロガー,ならびに南関東の約130箇所に展開した広域METROSの観測データを継続取得し,大気汚染常時監視測定局の気象観測データ等を併用して研究を進めた。 (1)地表面に近い層の安定度に関して鉛直温位傾度の夜間最大値を調べると,各地点とも夏季を含めて基本的に安定を示し,10月中旬~3月には都心でもしばしば逆転状態となり,この季節変化は都区部西部の気温急変域を挟む地上の水平気温差とよく平行する。東京西郊の接地層鉛直温位傾度と東京都心や都区部西部の高度別鉛直温位傾度との相関を求めると,東京都心の方が上空まで正相関が大きく,都心では都区部西部の逆転層上端を超えて上空まで郊外の逆転の影響が及んでいる可能性が指摘された。 (2)暖候期晴天日の夕方から夜半過ぎに認められる都心上空の高温に関し,気象庁LFM初期値925hPa面の気温と風の時間変化を調べると,関東山地東麓から低気圧性の渦を伴う高温域が東進している。このような渦が夜半頃に東京都区部を通過する場合は内陸からの陸風が東京湾まで到達するが,埼玉県中央部を通過する場合には陸風は到達しない傾向が認められるなど,下層大気における興味深い現象が指摘された。 (3)都市温暖化の原因となる顕熱輸送効率(バルク係数)について検討を行った。国立科学博物館自然教育園(緑地),東海大学代々木キャンパス(市街地)における我々の実測結果について,既往研究と合わせて解析したところ,市街地では顕熱輸送効率が緑地の1/4程度である(市街地は輸送効率が悪い)ことがわかった。この輸送効率の違いは,伝熱工学におけるレイノルズ数を用いたパラメタリゼーションと概ね一致することがわかった。今後は,この輸送効率の違いが温暖化にどの程度影響を与えうるのかを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,COVID-19の影響により,小学校の百葉箱に温度ロガーを設置している広域METROSのデータ回収が4か月程度遅れたものの,携帯回線によってリモートアクセスをしている温度プロファイラのデータは概ね順調に取得できた。また,自治体による大気汚染常時監視測定局のデータ等も研究協力者により順次入手している。観測データは研究組織で共有され,解析に利用されている。 東京都心から都区部西部,東京西郊に至る境界層の長期連続的な気温鉛直分布の観測データが蓄積されてきており,統計的な解析も可能となってきたことから,冬季夜間については都心の鉛直気温分布特性や,都区部西部の強い接地逆転に与える高温位空気の下降とそれに対応する風の変化など,また夏季においては夕方から夜半過ぎにかけての上空の高温が関東平野南部を東進する低気圧性の渦と対応する可能性など興味深い現象が指摘された。 以上のことから本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
都心域と都区部西部の温度プロファイラや東京西郊(西東京市)のタワーに取り付けた温度ロガー,および南関東約130箇所における広域METROSの観測を継続し,鉛直方向ならびに水平方向の気象観測データを蓄積する。また,研究協力者(東京都環境科学研究所)の支援を得て,自治体の大気汚染常時監視測定局(常監局)などの時間分解能が高く空間的にも稠密な気象観測データを収集し,データベース化する。データは研究組織で共有し,以下の解析を進展させる。 冬季夜間の現象については,事例解析によって都区部西部の逆転層上端の気温が同高度の都心に比べてかなり高いことや,上空からの間欠的な高温位空気の下降が示唆され,同時に地上風向の変化が認められることから,局地的な風系(陸風やヒートアイランド循環)に着目して解析を行う。2冬季の観測データが揃うことから,晴天弱風日の全事例を用いて,卓越する陸風風向や都区部西部の気温逆転層の時間変動で事例を分類し,夜間の陸風に伴う冷気移流の効果や間欠的な逆転層上方での気温上昇などに注目して,気温分布や地上風の時間変動成分を抽出する。そして時間変動の空間構造を把握し,逆転層の強弱や水平気温分布(特に都区部西部に認められる大きな水平気温傾度)の変動をもたらす要因を明らかにする。その際に,変動の時間スケールが数十分程度と短いため,常監局1分値や既設置のPOTEKAによる地上観測値を利用する。 夏季においては,夕方から夜半過ぎにかけて上空に高温層が現れて,上空の安定層に伴い都心でも混合層が下層に限定される場合がある。このような都心上空における境界層の変形は従来報告されていないが,気象庁LFM(局地モデル)初期値による事例解析では,上空に暖気を伴う低気圧性の渦の東進が認められた。いわゆる原田渦の可能性が示唆されるが,このような外的要因による下層大気の変形について解析を進める。
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備考 |
代表オーガナイザーとして日本地理学会公開シンポジウム「都市気候と局地風系:ローカル気候学研究の現状と課題」を開催した。
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