研究課題/領域番号 |
17H00844
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
三宅 淳巳 横浜国立大学, 先端科学高等研究院, 教授 (60174140)
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研究分担者 |
井上 智博 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (70466788)
伊里 友一朗 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 助教 (90794016)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エネルギー物質 / 爆発 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、爆発現象の理解と予測精度を飛躍的に向上させるため,外部エネルギーの入射による反応の生起から分解,発火,燃焼,爆発に至るプロセスを精密な実験で測定,解析するとともに,現象を分子レベルでの化学結合の組み替えによる詳細反応解析に基づく量子化学計算により再現し,爆発の発生,伝播及び爆発影響予測に至る体系的な爆発学理の構築を図ることである。 平成29年度は、凝縮相エネルギー物質の代表として、アンモニウムジニトラミド、硝酸アンモニウム、黒色火薬等を選定して、特に熱的な外部エネルギー入力に対する爆発学理構築を行った。その結果、上記エネルギー物質の凝縮相および気相における詳細反応機構構築および流体現象解析を行う方法論を確立することを世界に先駆けて達成した。特に溶媒効果を取り込んだ量子化学計算を用いて、凝縮相におけるエネルギー物質の詳細反応モデリング技術に関して大きな進展があった。詳細反応モデリングとは素反応の抽出、抽出した各素反応の速度定数算出、各素反応に現れる全ての化学種に関する熱力学データ(生成エンタルピー・エントロピー・比熱など)の算出のことである。本年度は、これまでの研究実績を基に、上記凝縮相エネルギー物質等が呈する反応を全て抽出して、量子化学計算を用いて詳細反応モデル(エネルギー物質の分解・燃焼解析用詳細反応モデルYNU-L 1.0, YNU 1.0 model)を構築し、実験的にそれを検証した。詳細反応モデルを用いた凝縮相エネルギー物質の熱分解反応(爆発の前駆反応)シミュレーションは実験結果を良好に再現できた。 詳細反応機構モデリングに関する研究は大きく進展した一方で、同時に多くの課題を抽出された。それらはより熱力学データ算出方法や検証実験方法に関する課題であり、詳細は今後の研究の進捗方策に記載する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度は、アンモニウムジニトラミド、硝酸アンモニウム、黒色火薬等の凝縮相エネルギー物質の凝縮相および気相における詳細反応機構構築および流体現象解析を行う方法論の基礎を確立することを達成した。 詳細反応モデリングは、量子化学計算(CBS-QB3//wB97X-D法に溶媒効果SCRF/IEFPCMを組み合わせる方法)を用いて実験値を再現する熱力学データや速度パラメータを算出できることを見出した。本手法を用いて、凝縮相エネルギー物質の詳細反応モデル構築を達成した。例えば、アンモニウムジニトラミドの熱分解反応に関して78の化学種、118の素反応から構成される詳細反応モデルを構築し、これが熱分析、分光分析、生成ガス分析の結果を良く再現することを確認した。これら成果は速やかに英文論文化し、国際会議での発表(20件)および国際学術誌に投稿した。 上記の通り、モデリング手法の基礎を確立でき、既にそれを用いた成果報告が活発に行われている点から当初の計画以上に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
構築されたエネルギー物質の分解・燃焼解析用詳細反応モデル(YNU-L 1.0, YNU model 1.0)は限定的な物質のみに関するものであり、より汎用的なモデル構築のために拡張が必要である。平成30年度では次世代ロケット推進剤原料である硝酸ヒドロキシルアミンや自動車用エアバッグ用ガス発生剤原料である硝酸グアニジンを解析対象に追加し、詳細反応モデルのさらなる一般化を図る。解析対象の拡充と共に、詳細反応モデリング技術の高度化も必要である。具体的には、量子化学計算に関するエネルギー計算精度の向上とより適切な溶媒効果の適用である。特に溶媒効果に関しては、現行広く用いられている連続誘電体モデル(PCMs)には大きな制約条件があるため、抜本的な改善が必要である。平成30年度では、抜本的な改善検討の前段階として、PCMsの補正モデルを採用して、その効果を検証する。理論的なアプローチを向上させる一方で、実験的なアプローチに関しても改善が必要である。特に、凝縮相エネルギー物質の爆発・燃焼現象は高速で進展する過渡現象であるため、その工学的な可視化や化学反応のモニタリング技術向上は必須である。具体的には、高速度カメラを用いた複合測定条件(二色方による温度複合計測など)の確立や、高感度熱量計による熱分解反応の精密熱量測定や高分解能飛行時間型質量分析計を用いた生成ガスの高精度分析を実施する。
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