研究実績の概要 |
本年度は、主に分子スケールと細胞スケール、メゾスケール、マクロスケールの研究課題を推進し、応用研究へと展開した。主要な研究実績は以下の通りである。 1.せん断流れ条件下において、細胞膜や赤血球膜を模擬したベシクル膜上の膜タンパク挙動をDPD手法により調べ、移流と拡散による膜タンパクの輸送現象を明らかにした(Nakamura, et al., Biophys. J. 2019) 2.繊毛の協調運動を表現できる微生物の数理モデル化に世界で初めて成功し、微生物遊泳中においては繊毛層のエネルギ損失が極めて高いことを発見した(Ito, et al., J. Fluid Mech., 2019) 3.微細藻類が走地性を示すメカニズムを調べ、従来言われたbottom-heavinessの効果よりも、形の非対称性の効果が重要であることを解明した(Kage, et al., J. Exp. Biol., 2020) 4.微細藻類のGoniumの走光性現象に対する実験と理論、数値シミュレーションを実施し、走光性を示すメカニズムを解明した(Maleprade, et al., Phys. Rev. E, 2020) 5.線虫がバクテリアを捕食するメカニズムを調べ、線虫のフィルターの微細構造と摂食メカニズム、および摂食機能を解明した(Suzuki, et al., Theor. Appl. Mech. Lett., 2019) 6.生体内の3次元的な物質輸送を、顕微鏡下で高時間解像度で計測する手法を開発した(Kikuchi, et al., PLoS ONE, 2019)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度は、特筆すべき研究成果として、ケンブリッジ大学のGoldstein研究室と共同で微細藻類のGoniumの走光性現象を解明したことである(Maleprade, et al., Phys. Rev. E, 2020)。この研究では、Goniumが光に対面する鞭毛の運動を短時間停止することにより、光の方向へと方向転換していることを明らかにした。この成果は、世界最先端の実験と理論、数値シミュレーションが有機的に融合することで初めて生まれるものであり、当初の予定よりも早く成果が結実した。また、応用研究課題の可視化手法の開発にも成功しており(Kikuchi, et al., PLoS ONE, 2019)、当初の計画以上に研究が進展していると判断した。
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