研究課題/領域番号 |
17H00856
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
飯田 琢也 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10405350)
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研究分担者 |
床波 志保 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60535491)
中瀬 生彦 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40432322)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ナノバイオ / 分析科学 / 分子認識 / 光濃縮 / 微生物 / 細胞 |
研究実績の概要 |
多種多様なナノ・マイクロスケールの生体関連物質を「光」で誘導濃縮して生化学反応を加速するためのオンデマンド型の『光誘導加速システム』の原理解明と、迅速かつ高効率にバイオ分析や薬物送達ができるシンプルなシステム構築を目指してきた。特に、計画の3年目に当たり、項目(1),(3)の統合により光誘導加速のミクロ・マクロの機構解明と応用に大きな進展があり、マイクロ流路中での圧力駆動流の補助の下で抗原抗体反応の光誘導加速に成功し、ターゲットとなるタンパク質濃度と形成されるプローブ粒子との複合体の集合面積の間に正の相関があることを解明した(特願2019-0158131)。この原理を用いることで光誘導加速により得られた集合体の射影面積から標的タンパク質の濃度を評価できることも明らかとなり、従来法で5時間かかる特異検出をわずか3~5分のレーザー照射で実現し、検出下限も1/10~1/100と大幅に改善できることを見出した。また、項目(2)の光誘導加速基板の開発では、微生物の低ダメージかつ高密度・大面積の光濃縮を可能とする六方最密な多細孔型の基板の電磁気学的・熱流体力学的なシミュレーションと実験結果の対応関係を示すこともでき、光誘導加速の要となる光誘起対流の理論解析法も確立した。さらに、そこでの知見を活用し、低ダメージ光濃縮の極限化にも挑み、前年度に開発した疑似気泡基板の性能評価を系統的に行い、レーザーパワーを高めても100%近い生存率を維持できることを明らかにした(担当学生がOCU先端光科学シンポジウムで受賞、論文投稿中)。さらに、光学系の小型化にも取組み、スマートホン程度の大きさのポータブル光濃縮システムのプロトタイプ開発にも成功するなど極めて顕著な成果も得た(国際的な展示会CEATEC2019に出展(特許2件出願、英国BBCの番組クリックでも紹介)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように、2019年度の項目(1)~(3)のほぼ全てを達成し、実用化にもつながる顕著な成果を得た。特に、抗原抗体反応の光誘導加速に成功した成果は生体ナノ物質の特異検出のケタ違いの高感度と迅速化を両立する画期的な成果であり目的達成における極めて重要な成果である。また、前年度に開発した疑似気泡基板では光発熱効果による対流を用いているにもかかわらず微生物を対象に生存率を100%近くまで高めることができただけでなく、光学的な定量評価や理論解析における著しい進展があった[受賞1]。また、手の平サイズで持ち運びできる光濃縮システムの開発に成功したことも当初の想定以上の大きな進展である[メディア1~3]。さらに、細菌や細胞用の多細孔基板、上述の疑似気泡基板などの各基板での光発熱効果と光誘起対流の系統的な理論解析・デザインが可能となり、オンデマンド化の基盤構築に大きな前進があった。 ※本課題の基礎となる成果に関し、以下の受賞があった。[1]優秀ポスター賞、OCU先端光科学シンポジウム(2019/10/21)、「細菌の機能分析に向けたダメージフリー光濃縮のためのバブル模倣基板の開発」、発表者:林康太、山本靖之、田村守、床波志保、飯田琢也、[受賞者:林康太] ※本成果の一部が以下を含む多数のメディアで紹介された。[1]BBC World News Click, CEATEC2019の展示を紹介(2019/10/19) (https://www.youtube.com/watch?v=CGNjohGkFxI ) [2]「「光濃縮」活用5分で完了、大阪府大と村田製作所 小型検査装置」、日刊工業新聞(2019/10/17) [3]「村田製作所と大阪府立大、細菌検査を効率化する「ポータブル光濃縮システム」を共同開発」日本経済新聞 (2019/10/11)
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今後の研究の推進方策 |
これまでの3年間で核酸、タンパク質などの生体関連物質の世界トップクラスの迅速性と感度を誇る検出法確立や、細胞膜透過性の希少薬剤のハイスループット送達技術の基礎原理を世界に先駆けて解明して来た。特に、核酸の光誘導電気検出の手法の基礎構築、タンパク質のマイクロ流路中での圧力駆動流の補助の下で極微量タンパク質を数分程度の短時間で検出できる新原理の解明と、細胞へのnMレベルでの分子取込の光誘導加速にも成功した。 これらの成果に基づいて項目(1),(2),(3)の全項目を統合し、開発して来た低ダメージ光誘導加速基板を様々な生体サンプルに適用する。特に、これまでに開発して来た疑似気泡基板を活用した微生物検出の適用範囲拡大に加え、生体関連分子を修飾した疑似気泡の表面に分子認識で生体ナノ物質を選択的に捕捉するプロセスを光誘導加速するための機構解明も行い、新規光誘導加速基板による迅速・高感度特異検出に注力する。また、前年度に着手した固液界面でのDNA二重鎖形成の光誘導加速の知見や、実績のある細胞表面の受容体と薬剤分子などの特異結合の光誘導加速の成果も援用して「オンデマンド光誘導加速システム」の原理を確立して目的達成を目指す。加えて、物性評価を行って来た共鳴波長可変のナノプレート配列基板の光濃縮特性の評価や、蛍光修飾ターゲットDNAの二重鎖形成の光誘導加速も検討して目的達成における補助的知見の獲得も目指す。 次の2020年度は最終年度ということもあり、項目(1)~(3)の統合により得られた成果や副産物として得られた新規知見に関する成果の論文執筆など外部発表を積極的に行う。
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