研究課題/領域番号 |
17H00859
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
毛利 聡 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00294413)
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研究分担者 |
塚田 孝祐 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (00351883)
花島 章 川崎医科大学, 医学部, 講師 (70572981)
橋本 謙 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (80341080)
氏原 嘉洋 名古屋工業大学, 工学研究科, 准教授 (80610021)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 心臓メカニクス / コネクチン(タイチン) / 拡張障害性心不全 / 冠循環 / 心機能 |
研究実績の概要 |
横紋筋細胞(心筋・骨格筋)の伸展性を規定するバネ分子コネクチンは生体内最大のタンパク質であり、バネとしての弾性特性発現や機械的刺激に対する心筋細胞応答を担うことが報告されているが、その大きさ故に分子機能や心不全の病態生理における役割の解析は困難である。心筋細胞のコネクチンは胎児・新生児期のN2BAアイソフォームから成人型のN2Bアイソフォームに成長に伴って変換することが知られているが、高血圧などの圧負荷に対してN2BAの増加の有無について相反する報告がなされている。本研究では4週齢Wisterラットにモノクロタリンを投与して肺高血圧を発症させ、右心室に対する圧負荷への応答を検討した。右心室への圧負荷は左心室へのものとは異なり、動脈圧が低下していることと心室壁が薄いために冠循環が障害され易いという特徴がある。コネクチンアイソフォーム発現は心エコー評価では右室圧の上昇が軽度であるモノクロタリン投与2週後でも対照と比較してN2BAの発現が増加していた。N2BAはN2Bに比べ分子内のバネ領域が長いため、圧負荷に対応して伸展性を増加させた応答と考えられた。コネクチンによる心臓機能・構造調節のメカニズムとして、胎児期には核に高発現し、出生後発現が著減する novex-3(コネクチンのアイソフォーム、分子量62.5万)に注目し、心筋細胞の分裂に関与することを明らかにした。そしてnovex-3高発現マウスを作成し、X線位相差CTによる微細構造評価を行った。X線位相差CTでは、心停止液により弛緩した状態で心室内腔にアガロースゲルを一定圧で充填し、心室内の乳頭筋や房室弁、肉柱構造などを固定することなく可視化することが出来た。今後、心筋の細胞周期に関する研究を進めていく上で生体レベルでの臓器形態制御システムを解析する有用なツールとして活用できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ラットを用いたモノクロタリン誘導肺高血圧モデルによる右心室のコネクチンアイソフォーム発現変化と心臓メカニクスの検討や、出生児の酸素分圧変化で発現量や局在が著明に変化するnovex-3(コネクチンアイソフォームの一つ)高発現マウスのマクロ心機能・心筋細胞・分子レベルでの機能解析や心臓微細構造の検討に関しては、心不全におけるバネ分子コネクチンの心臓メカニクス制御機構の解明に向けて概ね順調に進んでいる。これまで圧力負荷による心不全では心筋細胞で発現するコネクチンアイソフォームN2BとN2BAの変化は報告により異なっていたが、酸素環境や力学的状況によって応答が異なることがわかってきた。また、断面が円形に近い心外膜側心室壁に対し入り組んだ肉柱構造をもつ心内膜側心室壁の構造を組織固定することなく生体に近い状態で評価するために、放射光施設SPring-8にてX線位相差CTによる心室微細構造の撮影を行った。この手法は、高い分解能で生体組織を観察できると共に、炭素・酸素・水素などの軽元素で構成される心筋組織の比重を画像上で可視化できる特徴があり、分裂能を持つ心筋細胞が幼若化して細胞内の収縮タンパク量が現象していることが予想されることを合わせて考えると、心臓を構成する心筋細胞の分化度を部位別に評価するユニークな評価法となり得る。一方で、本研究の主要テーマの一つであるコネクチン分子I帯の弾性特性を光ピンセットで評価する課題に関しては、これまでに原子間力顕微鏡を用いた結果が報告されていた middle Igドメインの一部分(540アミノ酸)にGST抗体とアビジンをコーティングした検体で実験を進め、長さ-張力関係を計測しているものの再現性の高いデータを得られていない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
ラット肺高血圧モデルを用いた力学的負荷に対するバネ分子コネクチンの生理的応答と心不全への進行機序に関しては、モノクロタリン投与量を変えて病期進行の異なるモデルを作成し、Hif-1などの低酸素誘導因子などとの関連や大動脈縮窄モデルにおける左心室との違いを検討する。圧負荷に対する心肥大応答において、胎児期タンパクが発現してくることは良く知られており、胎児期・新生児期型のコネクチンN2BAアイソフォームの発現が増加することは同様の応答であるが、その生理的意義についてマクロ機能である心臓力学的知見やミクロレベルでの分子生物学的な知見をマルチスケールで統合していく。また、novex-3を始め出生時の心筋分裂停止に関与する因子の遺伝子改変マウスを作成しており、正常では出生後に分裂を止め肥大のみによって成長する哺乳類の心臓が付加的に細胞分裂が維持された時にどのような結果を招くのかを明らかにして、高いポンプ機能を発揮し続けねばならない成体心臓において心筋細胞分裂の起こす結果についての知見を得る。我々の心筋細胞が心筋梗塞などの疾病にあたっても二度と分裂しない終末分化細胞であることの意味とメカニズムを知ることは再生医療にとっても重要な情報である。また、現在進捗が遅れているコネクチン分子の光ピンセットによる分子弾性評価法の確立についてもビーズの修飾や実験溶液の改良で再現性の高いデータが得られるよう検討を続ける。X線位相差CTによる心室微細構造評価に関しても、現在は拡張期の形態を撮影しているが、非固定標本で実験している利点を生かして同一標本で収縮期形態を撮影して、複雑な心室内腔の肉柱構造が収縮・弛緩においてどのような役割を果たしているか、また、付加的な心筋分裂がどのような影響を与えるかについて検討する。
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