研究課題/領域番号 |
17H00863
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水口 裕之 大阪大学, 薬学研究科, 教授 (50311387)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ウイルス / 遺伝子 / 癌 / 免疫学 / バイオテクノロジー |
研究実績の概要 |
現在、遺伝子治療や癌に対するウイルス療法等が、再び大きな注目を集めている。本研究では、近年新たな研究領域として開拓されてきたマイクロRNA(miRNA)や免疫誘導メカニズム、ゲノム編集の観点から、基礎に立ち返って、アデノウイルス(Ad)と宿主の攻防(ウイルスは細胞で複製に最適な環境を作ろうとするのに対し、細胞はそれを防ごうとする)を理解し、それらを遺伝子治療やワクチン、ウイルス療法、さらには基礎研究への応用に適した改良型Adベクターの開発につなげることを目的に研究を遂行した。H29年度は以下の成果を得た。 (1)Adと生体(細胞)との相互作用解析 ①Ad複製の観点からの解析:DicerによるAd複製の制御機構について解析し、DicerによりVA-RNA Iが切断されることが、Ad複製を負に制御することを明らかにした。 ②免疫誘導の観点からの解析:代表者らはこれまでに、Adベクターを筋肉内へ投与すると、全身だけでなく粘膜面においても搭載抗原特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)を強く誘導可能であることを明らかにした。そこでそのメカニズム解明に関する研究を行ったところ、Adベクターを筋肉内投与後に惹起されるⅠ型IFNシグナルにより所属リンパ節でTh17分化誘導サイトカインが発現上昇することでTh17が誘導され、その後このTh17が所属リンパ節から腸管粘膜面へと移行し、腸管粘膜面での抗原特異的なCTL誘導を促進することを明らかにした。 (2)CRISPR/Cas9システム搭載Adベクターの遺伝子治療や基礎研究としての有用性評価 Adベクター作用後産生されるI型IFNにより、gRNAコピー数が低下し、その結果、ゲノム編集効率が低下することを見いだし、注意を要することを明らかにした。また、Cas9とは異なる特徴を持つヌクレアーゼとして近年開発されたCpf1を発現するAdベクターの開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)Adと生体(細胞)との相互作用解析 ①Ad複製の観点からの解析:DicerがAd増殖に必須の因子であるVA-RNA Iを切断することで、Adの増殖を負に制御していること、さらにはDicerのノックダウンにより、Ad増殖が促進されること、Dicerを介した宿主miR-27の産生がSNAP25やTXN2の発現制御を通してAd感染を阻害することを明らかにした。 ②免疫誘導の観点からの解析:筋肉内投与されたAdベクターワクチンによって粘膜免疫も誘導されるメカニズムの一端を明らかにした。本メカニズムの解明は、未だ明らかになっていない全身免疫系から粘膜免疫系への橋渡し機構の解明に繋がると期待される。さらには、粘膜を初発感染部位とする多くの新興・再興感染症予防の発展に大きく貢献できると考えられる。 (2)CRISPR/Cas9システム搭載Adベクターの遺伝子治療や基礎研究としての有用性評価 すでに代表者らは、テトラサイクリンの遺伝子発現制御系を搭載した改良型Adベクターを用いることで高タイターのCas9発現Adベクターが得られる技術開発に成功した。さらには、Cas9とは異なる特徴を持つヌクレアーゼとして近年開発されたCpf1を発現するAdベクターの開発に成功した。今後、両ゲノム編集系を搭載したAdベクターの性質を詳細に解析することで、本系が生命科学研究の貴重な基盤技術になることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
(1)Adと生体(細胞)との相互作用解析 ①Ad複製の観点からの解析:ヒト5型Adは小分子ノンコーディングRNAとしてVA-RNA Iに加え、VA-RNA IIもコードしている。VA-RNA IIに関してはAd増殖の促進に寄与することは示されているものの、VA-RNA Iと比較しPKR阻害能が弱く、その機能はほとんど明らかとなっていない。しかし近年、VA-RNA I, IIともに宿主のmiRNAと同様の機構でVA-RNA由来miRNA(mivaRNAI, II)へとプロセシングされることが明らかとなったことから、何らかの標的遺伝子の発現を抑制することでAdの増殖を促進していると推察される。そこでH30年度は、VA-RNAIIのウイルス増殖促進への関与について解明し、VA-RNA IIやその標的遺伝子のAd複製等に及ぼす影響について解析する。 ②免疫誘導の観点からの解析:Adベクターは現在、ベクター投与による生じる免疫反応を逆に利用して、HIVやエボラ出血熱、高病原性インフルエンザ、C型肝炎、マラリア、結核)、ジカなどの新興・再興感染症に対するワクチンベクターとして利用する試みが盛んに行われている。Adベクターを用いたHIVワクチンの臨床試験では、生体が有するヒト5型Adに対する既存抗体がワクチン効果に影響を及ぼしていることが報告されている。そこでH30年度は、ヒト5型Adに対する既存抗体の主な標的であるヘキソン領域を改変したAdを開発し、ヒト5型Adに対する既存抗体存在下での遺伝子導入特性等について解析する。 (2)CRISPR/Cas9システム搭載Adベクターの遺伝子治療や基礎研究としての有用性評価 H30年度は、CRISPR/Cas9に加え、CRISPR/Cpf1システムを発現するAdベクターによるゲノム編集の特性について詳細に解析する。
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