研究実績の概要 |
本年度では, リンパ行性薬剤送達法において薬剤刺入点である上流リンパ節から下流リンパ節まで薬剤送達に求められる注入量・注入速度, 投与量, 腸骨下リンパ節の大きさ,リンパ管の直径, リンパ節内の圧力を求めることを主たる課題にした. 本実験では, リンパ節腫脹マウスであるMXH10/Mo/lpr マウスを使用した. 上流リンパ節として腸骨下リンパ節, 下流リンパ節を固有腋窩リンパ節とする. まず, シリンジポンプを使用して, 蛍光色素を腸骨下リンパ節に注入しリンパ管経由で固有腋窩リンパ節に送達させた. 流れの様相は蛍光実体顕微鏡で観察した. 腸骨下リンパ節および固有腋窩リンパ節の大きさは高周波超音波装置で測定し, リンパ節内の圧力は圧力装置で測定した. 固有腋窩リンパ節内部を十分に満たし得る注入速度は10 to 80 uL/minであった. 100 uL/minを超える注入速度では, 蛍光色素は腸骨下リンパ節の輸出リンパ管と胸腹壁静脈の両者に流れ出ることになり, 固有腋窩リンパ節への蛍光色素の送達量が減少することになる. ボーラス投与では固有腋窩の内部まで蛍光色素を満たすことができない. 腸骨下リンパ節の体積は蛍光色素が固有腋窩リンパ節を充填するに必要な重要因子として判断されなかった. 固有腋窩リンパ節を満たし得る閾値は腸骨下リンパ節への注入圧とその作用時間の積として定義される撃力値が1.4×105 mmH2O・sec 以上であると算定された. 腸骨下リンパ節から固有腋窩リンパ節に向かうリンパ管内の蛍光色素の流れはレイノルズ数Reは1以下の極低レイノルズ数(代表長さ 約200um, 代表速度 < 1 mm/s, 動粘度: 1 mm2/s, Re < 1)と想定された. この流れは拡張されたハーゲンポアズイユ流れとして解析できることが理論的に求めることができた.
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今後の研究の推進方策 |
転移リンパ節に対するリンパ行性薬剤送達法の抗腫瘍効果を確認する. 抗腫瘍効果の増強を図るためにソノポレーションを併用する. まず, 固有腋窩リンパ節に腫脹細胞を移植し, これを転移リンパ節として定義する. つぎに, 腸骨下リンパ節にマイクロバブルと抗がん剤を注射して, 平成30年度に求めた送達条件で固有腋窩リンパ節にこれらを送達させる. 固有腋窩リンパ節でマイクロバブルを診断用超音波下で確認された段階でバブル崩壊用超音波を照射し, 転移リンパ節の抗がん剤治療を実施する.腫瘍増殖抑制効果は生物発光イメージング法, リンパ節体積変化は高周波超音波イメージング法, 転移リンパ節内の血管やリンパ洞の変化はマイクロCT,リンパ管内の流れは蛍光観察法, 形態は病理解析, 薬剤による腎臓, 肝臓などの副作用は血液検査で評価する. 比較実験としてソノポレーションを併用しないリンパ行性薬剤送達法を実施し, 抗腫瘍効果を比較する. 薬剤溶媒特性などの選択により, ソノポレーション併用が十分に確認されない場合には, 本研究目標をリンパ行性薬剤送達法単独による転移リンパ節治療法の開発に切り替え, 臨床応用に適した手法として展開する.
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