研究課題/領域番号 |
17H00874
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野崎 大地 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (70360683)
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研究分担者 |
門田 宏 高知工科大学, 情報学群, 准教授 (00415366)
平島 雅也 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報通信融合研究室, 主任研究員 (20541949)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 運動記憶 / 運動学習 / 到達運動 |
研究実績の概要 |
H30年度は以下の成果を得た。 1. 背景脳状態の多様性が運動記憶形成・定着に及ぼす影響:腕到達運動を新奇力場下で行う運動学習実験を実施した。実験は、訓練試行を行う学習フェイズ、発揮される運動記憶量を定量化するエラークランプ試行を行うテストフェイズの2つのフェイズから構成されている。 (1)学習フェイズにおける標的位置のばらつきを増加させると、中程度のばらつきが存在するときに、学習フェイズでの運動記憶量が増えるとともに、テストフェイズ中の運動記憶の減衰が抑えられることが明らかになった。 (2)被験者の左一次運動野にtDCS(経頭蓋直流電気刺激)を与えながら訓練試行を行った。学習フェイズ中に与えるtDCSパターンの多様性を最大4パターンまで増加させると、学習フェイズでの運動記憶量自体はさほど変わらないものの、テストフェイズ中の運動記憶の減衰が抑えられることが明らかになった。 (3) 以上(1),(2)の結果は、学習するときの背景脳状態や文脈に多様性をもたせると運動記憶の定着度合いが増加することを示唆している。従来の運動学習数理モデル(Nozaki & Scott, Exp Brain Res2009など)を発展させ、背景脳状態に応じて運動記憶素子が動員される数学モデルの構築することにより、これらの実験結果が説明できることを明らかにした。このモデルの結果に従えば、背景脳状態の多様性が増加によって運動記憶が多数の記憶素子に埋め込まれ、結果的に強固な記憶の形成に寄与していると考えられた。 2. 背景脳状態が運動パフォーマンスに及ぼす影響:低い到達運動パフォーマンスが生じる試行の運動直前には、感覚運動野におけるalpha帯、low beta帯の脳波活動の増加が観察された。さらに、こうした脳波活動の増加は、そのさらに一試行前から生じていること、すなわち失敗試行のような低いパフォーマンスの試行の予兆が現れていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度の研究目標として設定していた5項目は、(1)運動学習課題の多様性が運動学習・想起過程に及ぼす影響の解明、(2)運動学習時の脳状態多様性が運動学習・想起過程に及ぼす影響の解明、(3)脳状態とパフォーマンスの関連の解明、(4)背景脳状態の多様性が運動学習に及ぼす影響を説明する数理モデルの開発、(5)背景脳状態と運動記憶の脳内表象の関連の解明、であった。このうち(1)-(4)については、今後、被験者数を増やす、対照実験の実施、などが必要とはなるものの、本質的に重要な実験をすでに実施し、有望な結果を得ることができている。項目(5)については、挑戦的な課題でもあり、また、元々、確定的な結果が得られるのは令和元年度であると予測しており、計画に遅れはない。
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今後の研究の推進方策 |
R01年度は以下の3つを大きな目標とする。 1. 成果の論文化:これまでの2年間に得られた研究成果を研究論文として投稿する。研究実績の概要で記載した項目1, 2のそれぞれを個別に論文化する予定である。ただし、必要に応じて、対照実験の実施、被験者の追加などを行わなければならない可能性がある。 2. 背景脳状態と運動記憶の脳内表象(H30年度からの継続課題):我々が開発したfMRI内で使用可能な手首運動用のマニピュランダムを使用する。tDCSを受けながら運動学習している際の脳活動をfMRIによって測定し、Representational Similarity Analysisを用いることにより、形成される運動記憶の脳内表象のtDCS極性依存性を明らかにする。 3. 道具使用と運動記憶:H30年度に予備的な実験結果ではあるものの、同じ運動学習課題であっても、バーチャルな道具のどこの場所を操作するかということによって異なる運動記憶が形成されることが明らかになりつつある。操作点に多様性をもたせることで、道具を使用する際の運動記憶をより強固なものとして定着させることができないか検討する。
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