研究課題/領域番号 |
17H00875
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
今中 國泰 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 客員教授 (90100891)
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研究分担者 |
宮崎 真 静岡大学, 情報学部, 教授 (30392202)
中本 浩揮 鹿屋体育大学, スポーツ人文・応用社会科学系, 准教授 (10423732)
白井 述 新潟大学, 人文社会科学系, 研究教授 (50554367)
山田 祐樹 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (60637700)
瀬谷 安弘 愛知淑徳大学, 人間情報学部, 准教授 (30454721)
森 司朗 鹿屋体育大学, 理事, 理事(教務・学生・研究・国際交流担当)・副学長 (80200369)
石原 正規 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (60611522)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 認知行動科学 / 表象的慣性 / 予測 / 視覚機能 |
研究実績の概要 |
平成30年度計画では、予測的視覚機能である表象的慣性(動いている視対象の数百ミリ秒将来が見えるという視覚機能)の獲得過程を、(1)熟練・学習による獲得、(2)発育発達による獲得、さらに追加課題として、(3)進化的獲得の可能性(動物の表象的慣性)の予備的検討、を研究目的とした。これら下位課題の研究実績の概要は以下のとおりである。 (1)熟練・学習による獲得では、テコンドー経験者と初心者の予測能力と表象的慣性を、テコンドーキック動画・遮断法により検討した。その結果、テコンドー経験者は非経験者より早い段階でキックタイプ予測を行い(有意)、キックインパクトの一致タイミングも非経験者より正確に反応していた(非有意)。さらに表象的慣性は経験者の方が非経験者よりも大きかった(非有意)。これら3変数間の相関分析では、表象的慣性の大きさはキックタイプ予測と強く関連(有意な負相関)するが一致タイミングとは無相関、という結果が得られた。この結果は、先行研究の野球経験者の結果(表象的慣性が一致タイミング能力に関与、Nakamoto et al.,2015)とは大きく異なるものであった。したがって、表象的慣性の予測能への関与には、種目特性・刺激特性の違いが反映されている可能性が示唆された。 (2)発育発達的獲得については、昨年度までの成果を論文として国際誌に公表した(Shirai et al., 2018)。さらに幼児の縦断的検討、乳幼児期(2、3歳)の実験方法の検討を重ねてきており、今年度も検討これを継続する。 (3)動物の表象的慣性については、実験動物(ラット)用タッチパネルシステムの整備、少数例による移動刺激呈示・タッチ行動検出の検討を進めた。その結果、静止刺激呈示より移動刺激への反応の方が容易であることが分かったが、適切なタッチ行動誘発にはさらに検討が必要で、方法論的詳細の検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの、(1)熟練・学習による獲得、(2)発育発達による獲得、(3)動物の表象的慣性、それぞれの研究課題における進捗状況は以下のとおりである。 (1)熟練・学習による獲得特性については、野球とテコンドーという異なる種類のスポーツを取り上げて検討を重ねてきたが、それぞれの予測判断と表象的慣性の関連性には大きな相違のあることが明らかとなった。今後は、さらに異なる種目(バドミントン、剣道等)を取り上げて検討を進める予定である。また、ベイズモデルからの検討についても今後さらに継続的に進めていく。 (2)発育発達的側面については、幼児の表象的慣性の縦断的検討を継続的に実施してきており、現在その結果の分析を進めている。さらに乳幼児(2、3歳)を対象とする実験準備として、アイトラッカーシステムによる視線行動検出、その実験プログラムの開発を進めている。 (3)動物の表象的慣性について、(2)との関連で、表象的慣性の発育発達的獲得には先天的・遺伝的要素が関与している可能性も考えられ、進化的獲得の点からの検討を具体化するため、その可能性や実験方法について検討を進めてきている。 以上、熟練・学習による獲得、発育発達的獲得、さらに動物の表象的慣性の実験的検討、についてそれぞれ一定の成果が得られ、さらに今後の進展の方向性が明確になった点に鑑み、研究進捗状況はおおむね順調に進展してきているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
予測的視覚機能・表象的慣性の獲得過程について、(1)熟練・学習による獲得、(2)発育発達による獲得、(3)動物の表象的慣性、それぞれにおける今後の研究の推進方策は以下のとおりである。 (1)表象的慣性の熟練・学習による獲得については、①野球、テコンドーに加え、バドミントン、剣道など、さらに異なる種目を取り上げた検討を中心に進めていく(首都大・今中・石原、鹿屋体育大・中本、愛知淑徳大・瀬谷との共同研究)。②実験の方法論的自由度を広げるため、熟練者の予測判断に関する実験に仮想空間(virtual reality)における各種実験の導入を試みる(鹿屋体育大・中本との共同研究)。③表象的慣性が過去の知識と現在の知覚結果の両者の要素から決定されるとする仮説のもと、ベイズモデルからの検討をさらに進めていく(静岡大・宮崎との共同研究)。④多感覚的知覚認知の観点から、その実験的検討を継続していく(九大・山田)。 (2)発育発達的側面については、これまでの研究成果(表象的慣性機能は学童期初期に既に獲得されている点)を踏まえ、その発育発達特性の詳細をさらに検討するため、幼児の縦断的検討、乳幼児(2、3歳)の検討を進める(新潟大・白井、鹿屋体育大・森との共同研究)。 (3)また、発育発達的側面に関連する遺伝的・進化的要素の関与の可能性を探るため、動物(ラット)の表象的慣性に関する実験的検討を進め、本実験を早期に実施する(研究代表者・今中、博士研究員)。
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