研究課題/領域番号 |
17H00892
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
小松 英彦 玉川大学, 脳科学研究所, 教授 (00153669)
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研究分担者 |
一戸 紀孝 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 微細構造研究部, 部長 (00250598)
郷田 直一 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 助教 (30373195)
横井 功 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 助教 (50592747)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 意識的知覚 / 色覚 / 下側頭皮質 / 視床枕 / 大脳皮質一次視覚野 |
研究実績の概要 |
この研究ではマカクザルの初期視覚野と下側頭皮質と視床枕が作る神経ネットワークが、意識的な色知覚にどのように関係するかを明らかにすることを目的としている。平成31(令和元)年度は意識的な知覚とニューロン活動の関係を調べる有効な方法として、メタコントラストマスキングパラダイムを導入し、サルが注視課題を行っている時に、円形の刺激と同心円状のリング刺激をさまざまな時間間隔で短時間呈示し、一次視覚野(V1)ニューロン応答がどのように変化するかを調べる実験を行った。この実験では多チャンネルリニア電極を用いて記録を行い、同時に多数のニューロン活動および局所電場電位を記録した。V1ニューロンの発火は、平均として時間間隔がゼロの時に最も抑制され、知覚における抑制とは乖離が見られることが分かった。また網膜刺激と意識的知覚が乖離する別の現象として盲点における充填知覚に着目し、サルのV1で盲点を表現する部位からリニア電極で記録を行った。その結果、充填知覚時に深層を中心に視覚応答が見られた。 視床枕については、脳深部にあり多数の亜核からなり構造が複雑なため、電極による正確なアクセスが難しい。そこでパラフォルムアルデヒドで固定した1頭のニホンザルの脳の切断面を連続的に写真に記録し、芝浦工大の井尻博士が開発されたプログラムを用いて、連続写真上で脳の灰白質の境界をなぞっていくことにより視床枕の3次元マップの作成を試みた。現在、境界面が必ずしもスムースではない3次元マップが作成されたが、これからその点を改善していく予定である。また一頭のニホンザルで視床枕に電極を刺入することを試み、刺入経路の確認を行った。また下側頭皮質と視床枕の解剖学的結合を調べるために、マーモットの下側頭連合野へのトレーサー注入を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
意識的知覚に関係するニューロン活動を調べる上で網膜上の刺激と知覚が乖離する現象を用いるのは有効な方法である。そのような現象としてメタコントラストマスキングと盲点における充填をとりあげ、それぞれについて一次視覚野から多チャンネル記録システムを用いて、大脳皮質の浅層から深層にいたる異なる層の神経活動を同時に記録することができた。ニューロン活動の解析から、V1のニューロン活動と視知覚の関係を示すデータが集まりつつある。また局所電場電位のスペクトル解析やこれとニューロン活動の関係を調べるための技術の構築も進めており、今後、より多面的な解析が実施することができると考えられる。メタコントラストマスキングの実験はすでに2頭から記録を行っており、盲点における充填の実験に用いる予定の2頭目のサルの訓練も順調に進んでいる。また視床枕核の3次元構造の可視化も進んでいる。このようなことからおおむね順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
網膜上の刺激と知覚が乖離する現象を用いることが、意識的知覚の神経機構を調べる上での有効な方法であると考えられるため、引き続きメタコントラストマスキングと盲点の充填知覚に着目した実験を進める。メタコントラストマスキングについては、一次視覚野から十分なデータが得られた段階で、下側頭皮質からのニューロン活動記録実験に移行する。下側頭皮質は色識別に密接にかかわることが知られており、下側頭皮質前部には色選択性細胞が固まって存在する部位が存在する。そこで、この部位からニューロン活動を記録し、メタコントラストマスキング時の応答特性が知覚とどのように関係しているかを調べる。 更に、下側頭皮質とV1から同時に記録を行い、両方の部位のニューロン活動および局所電場電位がどのように関係しているかを解析する。それらの解析により、大脳視覚野のネットワークが意識的知覚にどのように関わっているかを明らかにする。また盲点において充填知覚が起きる時と起きない時で、一次視覚野の盲点表現領域付近のニューロン集団の活動がどのように変化するかを調べる。それにより知覚に関わるニューロン活動を生み出すことに皮質と視床が作る双方向回路がどのように関わっているかについての手がかりを得る。
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