研究課題/領域番号 |
17H00898
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
宮地 尚子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60261054)
|
研究分担者 |
後藤 弘子 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (70234995)
青山 薫 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (70536581)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 精神医学 / トラウマ / ジェンダー |
研究実績の概要 |
トラウマとジェンダーの相互作用を、(1)精神病理や臨床的側面から、(2)犯罪行為や逸脱現象の側面から、(3)当事者の自助グループやメディア発信・アート表象など文化創造的な側面から探り、明らかにすることを目的に、以下の研究活動を行った。国内外での共同研究を行い、また、論文執筆・ワークショップ等の開催・学会報告・講演等により研究成果の発信に努めた。 (1)では、宮地は、年間テーマである「トラウマ反応と身体の調律:アタッチメントと解離の最新理論から」に沿って、トラウマと身体の関係や、傷つきからの回復過程における言葉の役割、トラウマケアの様々な技法などについて考察を進めた。成果として、2020年9月にトラウマと身体の関係に関する著書を刊行した。さらにトラウマへの理解とケアに関する連続対談を実施した(成果は2021年4月に対談集を刊行)。また、「恥」「ケアする側の身体」「Gender-based Violence under the Covid-19 Pandemic」などのテーマで共同研究会議を行った。新型コロナウイルスのパンデミック化にともない、各地の新聞やWebニュースなど様々なメディアから取材を受け、トラウマケアに関する情報を発信した。 (2)では、後藤は、刑事司法におけるジェンダー問題の考察を進め、性暴力事件の刑事裁判の問題点や学校での子どもの性被害などについて、講演や研修、メディアでの発信を行った。宮地は、女性の薬物依存に関する共同研究を行った。 (3)では、青山は、国際移住とセクシュアリティの関係に関する考察を進めた。また、性的マイノリティの性暴力被害者への支援を行うNGOと連携し、性暴力防止のためのアウトリーチ、啓発活動を行った。宮地は、生命科学者や美学研究者、トラウマケアの臨床家などとの公開オンライントークに数度参加し、トラウマからの創造性について議論した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和2(2020)年度は、年間テーマ「トラウマ反応と身体の調律:アタッチメントと解離の最新理論から」に沿って、トラウマと身体の関係を中心に考察を進めた。 ・新型コロナウイルスのパンデミック化のもとで、DVなど親密な関係における暴力や、差別・偏見・排除の増大が注目され、トラウマ及び心のケアへの関心が高まってきている。そのため、トラウマへの理解や支援に関して、医療関係者、警察・法曹関係者などに向けた講演や、論文執筆、政策形成における助言、新聞や雑誌の取材等の依頼が増えており、様々な形で研究協力や共同研究を行った。 ・令和3(2021)年度の年間テーマ「震災のトラウマとジェンダー:10年後の病理/逸脱/創造性」についても、先行して、論文発表、学会報告など研究を進めている。宮地が精神医療考証として制作協力した、日本放送協会(NHK)のドラマ「心の傷を癒すということ」の放送(2020年1月-2月)とその映画化(2021年1月)にともない、阪神・淡路大震災から東日本大震災につながる震災トラウマのケアや記憶の継承に関して、学会で報告を行った。また、東日本大震災の復興の様子やジェンダーに関する問題、記憶の継承やフィクションという方法に関して、社会学研究者と対談を行い、学術雑誌に発表した。さらに、震災の記憶の継承方法に関して、地域アートのプロジェクトと連携し、共同研究を進めている。 以上のような理由から、研究は当初の計画以上に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
令和3(2021)年度は、年間テーマ「「災厄」のトラウマとジェンダー:震災の長期的影響とパンデミック」に沿って研究を行うとともに、最終年度としての総括を行う。年間テーマは、昨年度までの研究計画では、「震災のトラウマとジェンダー:10年後の病理/逸脱/創造性」としていたが、新型コロナウイルスのパンデミック化を受け、「災厄」というより広い概念で課題を捉え直すものとする。研究成果は、公開ワークショップの開催、国内外の学会発表、政策への提言、講演、論文、書籍等により発信していく。 ・東日本大震災後の 10 年をふりかえり、また、阪神・淡路大震災などとの関連をみながら、長期復興過程におけるトラウマの複雑化・潜在化をジェンダーの視点から問い直す。精神医学的な側面に加え、非行・犯罪や逸脱として現れる影響、当事者の創造的なつながりや活動(メディア発信やアート表象など)を探る。 ・コロナ禍の「新しい日常」における親密圏の変容や、差別・偏見・排除の増大とも絡めて、トラウマとジェンダーの相互作用を考察する。 ・震災の被災地で女性支援に関わる団体や、震災の記憶の継承方法を探求する地域アートのプロジェクトと協力し、トラウマとジェンダーの相互作用が自己回復や創造性に向かう流れを分析する。 ・悲嘆(グリーフ)及び複雑性悲嘆(外傷性悲嘆)とジェンダーの関係の考察を行う。
|