本研究は、国民国家における戦争の記憶を記録化したものでもある戦争記念碑と戦歿者墓碑をはじめとする「もの」史料を基に、戦後国家の統治構想と指導原理及び国民再統合の理論だけではなく、国民の国家観や加害と被害とが錯綜する戦争観・被害者論的平和観をも明らかにすることにあることから、本研究の主軸はフィールド調査による実態把握にあった。このため、2019年末に発生した中国武漢コロナウイルス禍は研究の遂行に多大の影響を齎すことになり、研究計画を大幅に変更せざるを得なかった。 このため、感染状況と行動規制などを見計らいながら研究をすすめ、且つ最終年度であることからその成果を纏めるために、今まで調査収集してきた資料の分析を行うとともに戦争記念碑と戦歿者墓碑の史料情報データベースの構築を行いつつ、国内調査については感染状況をみながらそれまで行ってきた沖縄社会における戦歿者慰霊(市町村と字単位)との比較をするため、民間人犠牲者の慰霊を中心に北海道でのフィールド調査を行った。 海外調査では、欧州が2022年後半に感染状況が改善し渡航規制も大幅に緩和されたことから、23年の2月と3月にドイツ・フランス・イタリアで現地調査を実施した。もっとも、年度末のため調査期間が制約され、コロナ禍により航空便の減便、ウクライナ戦争による航空運賃や諸物価の昂騰という条件下ではあったが大きな成果を得ることが出来た。 研究成果としては、近代の戦争については「戦後史を含めた戦争史」を叙述することが出来たことで、一つの歴史方法論を構築することが出来た。もっとも、これは戦時国際法に基づく戦争である近代の戦争についてであって、加害と被害が錯綜する1945年の戦後史については依然として未解明な問題がのこり、さらに「戦後」の戦争については「戦後」が存在していないことから現代史という新たな視点からの追究が課題として生まれた。
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