研究課題/領域番号 |
17H00939
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研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
谷口 康浩 國學院大學, 文学部, 教授 (00197526)
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研究分担者 |
百原 新 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 教授 (00250150)
植田 信太郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (20143357)
二宮 修治 東京学芸大学, 教育学部, 名誉教授 (30107718)
工藤 雄一郎 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (30456636)
近藤 修 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (40244347)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 縄文人 / 生態 / 縄文文化 / 縄文時代草創期・早期 / 更新世・完新世移行期 |
研究実績の概要 |
① 居家以岩陰遺跡の発掘調査 平成29年9月に群馬県居家以岩陰遺跡の発掘調査を21日間の日程で実施。安全対策のため岩陰に屋根と足場を組む。縄文時代早期の埋葬人骨群の調査を重点に、合計10個体を確認し7個体の埋葬人骨を取り上げた。また岩陰前面のテラス部に堆積する縄文早期中葉の生活廃棄物層(灰層)を精査し、土器等の人工遺物と食料残滓の動物骨や炭化植物種実等を収集。土壌水洗選別による篩がけにより微細遺物を徹底的に回収した。発掘調査は研究代表者の谷口が担当し、國學院大學の考古学専攻学生・大学院生を研究補助員として動員した。調査期間中に研究分担者・研究協力者による合同現地調査を実施し、役割分担に沿って分析試料の採収等を行った。 ② 出土資料の分析 役割分担に従い出土資料の専門的分析を進めた。考古資料の整理・図化(谷口)、出土人骨の形態人類学的分析(近藤)、人骨のDNA分析(植田)、年代測定(工藤)、黒曜石産地同定(二宮・大工原)、人骨抽出コラーゲンの同位体分析・年代測定(米田)、土器種子圧痕の分析(佐々木)、出土植物種子の分析(百原・那須)、動物骨の分類・同定(山崎)、土器付着物・残留脂質の同位体分析(吉田) ③ 古環境調査 地域植生史を復元する目的で草津白根山・苗場山および長野県栄村、新潟県津南町の湿原を踏査し、ボーリング調査の候補地を選定(百原・工藤)。 ④ 考古学的関連調査 上信越地域における草創期・早期の遺跡情報を集成しGISによる立地分析を行った。大分県枌洞穴・長崎県岩下洞穴・泉福寺洞穴・福井洞穴に出張し、居家以例との比較検討を行った(谷口・朝倉)。 ⑤ 全体会議・研究会・博物館速報展 6月に研究組織の全体会議を行い、研究実施計画を協議。10月・11月に國學院大學博物館で1号人骨の全身骨格を展示し研究成果を公開する速報展を開催。2月に平成29年度の研究成果を報告する研究会を開催。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
① 縄文人骨の研究 出土した縄文時代早期の埋葬人骨はきわめて保存状態がよく、全身骨格がほぼ揃った個体も含まれる。骨の形態の分析、DNA分析、人骨抽出コラーゲンの同位体分析は順調に進んでおり、1号人骨についてはミトコンドリアDNAの全塩基配列を解明したほか、形態や食性を詳しく調べることができた。また骨の出土状態の精密測量によって埋葬法も明らかにできた。平成29年度までに10個体の埋葬人骨を確認し、そのうち8個体を取り上げた。各個体の分析を順次進めており、研究成果の論文発表を準備している。縄文時代早期の完全な埋葬人骨は全国的にも少なく、居家以人骨群は人類学的にも考古学的にも最高の質をもった重要標本となることは間違いない。 ② 植物考古学・動物考古学的研究 縄文早期中葉の押型文土器期の生活廃棄物を多量に包含する厚さ1m以上の灰層の発掘に着手し、予想を上回る量の動物骨・植物種子等をきわめて良い保存状態のまま回収することができた。動物種・植物種の同定と分析を通じて早期縄文人の生態的行動と資源利用の詳しい復元を進めている。土壌水洗選別および1mmの篩がけを用いて微細遺物も徹底的に回収している。このように高い精度で計画的に収集された縄文早期の生活廃棄物資料は全国的にもほとんどなく、縄文文化形成期の生活実態を復元できる貴重なデータとなる。 ③ 考古学的研究 縄文時代早期の土器群・石器群が豊富に出土し、特に早期中葉の沈線文土器・押型文土器の出土量が多く、かつ新発見の型式群を含んでいる。居家以岩陰遺跡の出土資料を中心として、これまで未解明部分の多かった上信越地域の早期縄文土器の型式編年を構築し、さらに黒曜石や土器胎土鉱物の産地同定等を進めることで、早期縄文人の行動を具体的に明かにできる。それにより縄文文化の形成過程における人類の生態的行動の究明という本研究の目的に接近することができる。
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今後の研究の推進方策 |
① 居家以岩陰遺跡の発掘調査 居家以岩陰遺跡の発掘調査を継続して推進し、埋葬人骨、土器・石器等の考古遺物、動物骨・植物種子等の食料残滓を計画的に収集・蓄積して、縄文文化形成期の人間の生態的行動の解明を目指す。平成29年度に調査したのは、主に縄文時代早期後葉の埋葬人骨群と早期中葉の生活廃棄物層(灰層)であるが、今後さらに下層の発掘を進め、早期前葉から草創期の資料群の収集を進めていく予定である。 ② 地域環境史の調査研究 縄文文化の形成過程の問題を環境史との関係から考えることも本プロジェクトのもう一つの柱である。更新世末から完新世にかけての地域の環境史や植生史を復元するために、上信越地域の湿原でのボーリング調査を実施する。大型植物遺体の分析に加え花粉分析を担当する専門家を新たに協力者に迎え、研究組織をさらに充実させたい。 ③ 研究成果の公表 研究成果を順次、論文発表していく。また日本考古学協会総会・日本人類学会等でのセッションに積極的に応募し、本研究プロジェクトの成果を公開していく計画である。また、本研究プロジェクトの概要と研究成果を公開するWebページの開設を準備しており、平成30年度中の公開を目指している。さらに平成29年度に実施したように、國學院大學博物館での速報展も毎年開催して、研究成果のエッセンスを一般の方々にも広く見ていただけるようにしたい。発掘調査期間中には現地説明会を開催するほか、地元自治体と協議しながら地元での講演会も計画していく。 ④ 研究成果の発信と普及 最終年度には4か年の研究成果を総合する公開シンポジウムを開催する。研究期間終了後にはその内容を集束し書籍化する予定である。先端的な研究成果を広く発信するために、専門的な論文集ではなく、一般の方々にも理解できるように平易に解説するものにして研究成果を社会に普及・還元したい。
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