研究課題/領域番号 |
17H00980
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
西條 辰義 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 特任教授 (20205628)
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研究分担者 |
武田 裕之 大阪大学, 工学研究科, 講師 (00638512)
原 圭史郎 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30393036)
小谷 浩示 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 教授 (80422583)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フューチャー・デザイン / パスト・デザイン / フィールド実験 / セカンド・ソート / 持続可能性 |
研究実績の概要 |
まず、フューチャー・デザインに関するラボ実験(実験室実験)、フィールド実験を述べよう。ラボ実験では、高知工科大学の学生を被験者とし世代間持続可能性ジレンマゲーム実験を実施した。フューチャー・デザインの新たな手法として、パースト・デザイン(過去のイベントに評価を加え、もしそうでなかったら事象のパスがこのように変化したに違いないというデザイン)の効果を検証した。過去の人々にとって現在の人々は将来人であるため、パースト・デザインがフューチャー・デザインをする際に非常に有効であることを検証した。また、赤ん坊を含む選挙権を持っていない人々に選挙権を与える制度(ドメイン投票)について様々な実験を実施したが、この仕組みがほとんど機能しないことを確認した。 フィールドでは、インドネシア、中国、バングラデシュ、およびネパールの一般の人々を被験者とし世代間持続可能性ジレンマゲーム、時間選好、エネルギー消費需要等に関する実験調査を実施した。とりわけ、都市域は、非都市域と比べ、将来を割り引きやすいことがわかってきた。 社会的ジレンマを解消するにあたって、従来の理論では考慮されてこなかった再考(second thought)が非常に有効な手段であることを発見している。多くの人々が意思決定をした後、あの時点で別の意思決定をしておけばよかったと考えがちであるが、これを認めるのである。 フューチャー・デザイン実践については、岩手県矢巾町における第7次後期総合計画をテーマとしたフューチャー・デザイン実践をサポートした。総合計画の項目のうち、83%がフューチャー・デザイン実践で提案されたものとなった。また、吹田市の第3環境基本計画をテーマとしたフューチャー・デザイン実践を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、フィールド実験については、東アジアの様々な国々(日本、中国、インドネシア、ネパールなど)で、世代間持続可能性ジレンマゲームを実施することができたため、国と国の差、また同じ国内においても、都市域と非都市域で、人々の行動がかなり異なっていることを発見し始めている。このことは、持続可能性を目指すにあたって、一つの仕組みがユニバーサルに有効ではないことを示している。当初、2020-21年度にかけて、国際比較研究を想定していたが、これは思った以上に早く結果が出ている。 時間選好率については、インドネシアにおける近接する農村域と漁業域で、様々な実験を実施している。成果物がすぐに出る漁業域と、漁業域に比して成果物を得るのに時間がかかる農村域では、有意に時間選好率が異なっていることを発見している。つまり、漁業域の人々は将来の成果の割引率が高いのである。この結果も上記のユニバーサルな制度設計が単純にはできないことを示す結果となっている。近接する二つの地域ですら、人々の将来に対する選好が異なっていることの発見は、今後、重要になるであろう。 本研究の実践においては、市町のある特定の部局の特定の課題から出発しており、ある地方自治体の将来に関わるフューチャー・デザインは本研究の範囲内ではできないのではないのかと考えていた。ところが、岩手県矢巾町から総合計画そのものをフューチャー・デザインで策定するという依頼があり、本年度は、これに着手することができた。また、京都府宇治市における集会所のフューチャー・デザインを担当したが、この実践に参加した市民の皆さんが「フューチャー・デザイン宇治」という市民団体を立ち上げようとしている。フューチャー・デザインでは、市民の皆さんが主役となる新たな民主制の形を模索してきたが、実践のほうで、思ったよりも早く動き出したことに驚いている。
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今後の研究の推進方策 |
近接する地域ですら、多様であることをラボやフィールド実験で確認し始めている。このため、フューチャー・デザインの仕組みの設計に当たっては、これを考慮にいれた枠組みの構築がこれからの大きな課題となるであろう。 フューチャー・デザインでは、人々の考え方そのものを変えることを目指している。つまり、従来の社会科学では、人々の考え方から派生して表現される選好を与件とするが、そうする限りにおいて持続可能性は不可能であるという悲観的な見方をせざると得ない。さはさりとて、ほんとうに人々の考え方を変え、それが継続するのかは大きな課題である。これまでの研究で、そのような可能性の萌芽を観測しているが、2020-21年度にかけては、考え方が変わるということはどういうことなのかが課題になる。人々の多様性を考慮に入れると、どのような特質を持った人々が仮想将来人になりやすいのかという大きな課題に直面している。さらには、考え方を変える仕組みの設計はどうすれば良いのかも重要な課題になるであろう。 上記の課題に対し、実験室のみならず、実践でも挑戦せねばならないと考えている。まずは、社会的な課題に関し、従来の手法とフューチャー・デザインの手法でビジョンがどのように変わるのかが一つの課題となるであろう。また、少数者ではなく、たとえば自治体の多くの職員にフューチャー・デザインを実施する可能性もさぐらねばならないであろう。 フューチャー・デザインは日本で始まった新たな考え方であるが、次年度以降は、フューチャー・デザインの国際化に取り組みたい。海外の研究者・実践者と共にフューチャー・デザインを実施する可能性を探るのである。現時点では、研究者よりも、実践者から問い合わせが来始めているが、このような人々と共に海外の研究者との対話が課題になるであろう。
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