研究課題
本研究の目的は、光検出核磁気共鳴を基礎としてイメージング測定に拡張した光検出磁気イメージング(MRI)を、時間分解測定と組み合わせることで、物理現象の「動き」を可視化できる光検出時間分解MRIを確立し、従来の限られた材料系(GaAs系半導体)だけでなく、紫外~赤外に光応答を持つさまざまな物質に適用することで、より汎用性の高い測定技術へと進化させることである。初年度としては多くのリソースを測定装置の開発立ち上げに費やした。まず本研究予算で既存のチタンサファイアレーザーの修理を行い、フェムト秒ピコ秒レーザーの光源を確保した。さらに第二高調波発生器を作製し、紫外から近赤外の広い波長帯にわたって、フェムト秒のレーザー励起を行うことが可能となった。時間分解測定に関しては、ストリークカメラを購入し、時間分解PL測定を行うことが可能となった。一方、カー効果をプローブにしたカー回転イメージング法は、一部部品などの購入を済ませているが、まだ完成には至っていない。これらの新規装置や従来からある測定装置を用いて、いくつかの基礎的実験を進めた。GaAs系の試料ではナノ秒スケールの電気パルスを使ってエッジチャネルの透過反射特性を詳細に測定し、論文や学会などで発表した。また、量子ホール系で発現するトポロジカル励起の一種であるスカーミオンが相転移を起こすことが示唆される結果が得られ、学会等で発表すると共に論文執筆を行った。GaAs系以外の試料としては、遷移金属カルコゲナイド(InMnSe)の磁気抵抗測定や顕微分光測定から、InMnSeが二次元半導体としての特性を有することが示唆される結果が得られ、学会等で発表を行った。一方、極低温を実現する既存の希釈冷凍機に不具合が生じ、その不具合箇所の特定に非常に多くの時間が取られた。現在修理のめどが立っておらず、極低温測定に関しては想定外の遅れが生じた。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は初年度ということで、装置開発や改良、測定試料作りに多くの時間を割いた。試料や装置の最適化に関する基礎的なデータが得られただけでなく、一部の測定結果は論文発表に値する価値のあるデータも含まれており、その点では研究開始当初に期待した以上の成果が得られたといえる。特にGaAs系でのスピン輸送、スピンヘリックスダイナミクスに関しては、予想以上の成果が得られた。一方、極低温下で測定するための希釈冷凍機のシールドロータリーポンプが故障し、その交換を要したり、He4とHe3の混合ガスラインのリークにより、極低温に到達しない問題が発生したりした。装置の不具合箇所の探索が必要になるなどの作業に時間がとられただけでなく、当初予定していたミリケルビン温度での測定が一定期間不可能になるなど、予期しない装置の不具合に多く見舞われた。次年度以降、希釈冷凍機の修理に多くの時間が費やされることが予想されるが、時間分解測定系の構築自体は予想以上に進んでいるので、総合的にみると申請時に予定していた計画がおおむね順調に進んでいると考えられる。
次年度以降は初年度に構築したピコ秒スケールの時間分解測定を用いて、GaNやInMnSeなどの新奇材料の時間分解イメージング測定を進める予定である。特にGaNに関しては予想以上に測定系のセットアップが進展しているので、一定の成果が期待できる。InMnSeも磁気抵抗測定と時間分解イメージングを組み合わせる手法で、二次元半導体としての性質をより明確に示す予定である。一方、予期しなかった冷凍機の不具合により、既存装置の修理が必要で、申請段階で予定していた数10ミリケルビンの極低温測定にかなりの遅れが生じることになる。そのため次年度は、希釈冷凍機を修理している間に、4ケルビンから1.5ケルビン程度の温度で、時間分解イメージング測定が可能な冷凍機を作製し、1.5ケルビン付近で発現しうる物理の探索を優先的に進める予定である。InMnSeは室温から4ケルビンまでの温度測定を通じてキュリー温度の特定を目指す。GaAs系に関しては、最終的な測定にはミリケルビン温度が必須であるが、基礎的なデータの収集として1.5ケルビンで時間、空間イメージングを行い、量子ホール系での荷電励起子寿命のバルク・エッジ依存性や、エッジプラズモンの伝搬特性などの探索などを目指す予定である。
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Appl. Phys. Lett.
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10.1063/1.5009373
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http://quantum.phys.tohoku.ac.jp/