研究課題/領域番号 |
17H01038
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平川 一彦 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10183097)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 単一分子トランジスタ / テラヘルツ電磁波 / ナノギャップ電極 / 単一電子トンネル |
研究実績の概要 |
近年、単一量子ドット、ナノワイヤー、分子など極限ナノ量子構造を用いてトランジスタを形成し、その中における電子のダイナミクスを応用して、エレクトロニクスに新しい局面を拓こうとする研究が重要となりつつある。しかし、ナノ構造の物性解明と制御に非常に有効なテラヘルツ(THz)電磁波と極微細なナノ量子構造との相互作用は極めて弱い。本研究では、nmオーダーのギャップを有する極微金属電極をTHz電磁波に対するアンテナとして用いることにより、回折限界をはるかに超えてTHz電磁波を集光し、極微ナノ構造中の電子状態や伝導ダイナミクスを明らかにする。 特に本年度は、以下のような成果が挙がった。 1)単一金属内包フラーレン分子(Ce@C82)にアンテナ型金属電極を形成し、THz誘起光電流を測定することにより、内包されたCe原子の超高速ダイナミクスに関する研究を行った。インコヒーレントな黒体輻射THz光源を用いた場合、C82カゴ内でのCeのbendingモードとstretchingモード運動に由来するブロードな信号が見えた。一方、同じ分子をフェムト秒レーザパルスで励起したコヒーレントなTHz光源で測定すると、Ceの運動に起因するブロードな信号は観測されなかった。このことは、C82カゴ分子がCe原子と相互作用することにより、Ce原子の軌道がカオス状になることを反映しているものと思われる。 2)単一の水分子を内包したフラーレン分子(H2O@C60)を活性層とする単一分子トランジスタを作製し、その伝導やテラヘルツスペクトルを測定したところ、H2O@C60分子の荷電状態により変化する水分子の振動励起スペクトルを観測した。まだ電子数依存な励起スペクトルの起源は明らかではない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、nmスケールの隙間を有するナノギャップ電極により、直流電気伝導測定から静的な特性を、またテラヘルツ電磁波を照射したときの電流変化分(光電流)から電子伝導のダイナミックな情報を得ると言う手法を駆使して、単一分子やナノチューブ・ナノワイヤーの電子状態を明らかにする研究を進めている。上記のように、本年度は内包フラーレンの特性、特に内包された原子・分子の振動スペクトルの測定に成功した。特に、コヒーレント、インコヒーレントなTHz光源を使い分けて、フラーレンカゴ分子内に内包されたCe原子の運動がカオス的であることの実験的な証拠が得られたことは、原子・分子スケールの系のダイナミクスの解明にTHz分光が非常に有効であることを示す大きな成果と言える(高いIFの論文誌に投稿中)。また、本年度は、共同研究者より、単一水分子を内包しているフラーレン分子(H2O@C60)を測定させてもらうことができ、分子の帯電数により、H2O分子の励起スペクトルが変化することがわかったのは大きな成果である(論文準備中)。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、nmスケールの隙間を有するナノギャップ電極により、直流電気伝導測定から静的な特性を、またテラヘルツ電磁波を照射したときの電流変化分(光電流)から電子伝導のダイナミックな情報を得ると言う手法を駆使して、単一分子やナノチューブ・ナノワイヤーの電子状態を明らかにする研究を進めている。 特に、単一分子の物理と応用に関しては、H2O@C60分子の解析を進めるとともに、H原子の核スピンのNMR信号を、単一分子トランジスタの抵抗で検出できないか検討を行う。もし、この測定ができれば、単一原子・分子のNMRが可能になり、量子情報の媒体として新しい可能性が開ける。 またカーボンナノチューブに関しては、ナノチューブ内の電子とテラヘルツ電磁波の相互作用において、電子間の多体効果が観測されるべきであるが、これまで知られているカーボンナノチューブのバンドパラメータ(フェルミ速度と呼ばれる)から期待される遷移エネルギーとは整合せず、これについても検討を続ける。
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