研究課題/領域番号 |
17H01042
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西原 洋知 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (80400430)
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研究分担者 |
京谷 隆 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (90153238)
干川 康人 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (90527839)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グラフェン / 多孔体 / 弾性 / キャパシタ / 燃料電池 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、単層グラフェン多孔体であるグラフェンメソスポンジ(GMS)の形成機構の解明に向け、熱処理に伴うグラフェン組織の変化を詳細に検討した。その結果、1800℃を超えた温度から徐々にグラフェン組織が変化して積層構造が形成され、比表面積が低下することが明らかとなった。すなわち、単層グラフェン多孔体を得るためには1800℃が最適温度であることがわかった。 従来のGMSは粉末状のアルミナナノ粒子を鋳型にして調製していたため、粉末として得られていたが、GMSの応用やデバイス化に向け、シームレスなシート状GMSの調製を試みた。基材であるアルミナナノ粒子をシート状に成型し、これに従来とほぼ同じ条件でCVDおよび基材除去後の高温熱処理を施したところ、シート状GMSの調製に成功した。単層グラフェンを主とする骨格が3次元的にcmオーダーで連続的に連結してシートを形成しているため、GMSシートは単層グラフェンの特徴である弾性をもつことが確認できた。今後、柔軟性を生かした吸着および熱制御のための素子、また超高耐電圧の電極材料としての応用が大いに期待できる。 単層グラフェン多孔体のエッジ部位の電気化学的安定性に関する詳細な検討も行った。超高感度真空昇温脱離(TPD)による分析から、カーボン材料のエッジ部位の中で劣化に関与する部位をほぼ同定することができた。 新型単層グラフェン多孔体の合成を目指し、フラーレンから成る多孔性ポリマーの調製を試みた。フラーレン同士を架橋剤で連結して分子間に隙間を形成することで、比表面積が700 m2/g程度に達するミクロ多孔性ポリマーの調製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
GMSの生成機構の解明については、高温熱処理における構造変化をX線回折、ラマン分光、窒素吸脱着等温線測定、熱重量分析による燃焼温度評価などにより分析し、当初予定していたデータを円滑に取得することができた。 シームレスのシート状GMS調製については、当初想定していた通りの3次元グラフェン連続体としてのバルキーなシートを作ることに成功した。さらに、GMSシートの有機電解液中での酸化耐性を調べたところ、粉末状GMSをバインダーポリマーと混合して調製した電極に比べて耐久性が大幅に向上することを示す初期的検討結果が得られた。詳細な分析は次年度以降に行うが、GMSシートを利用した超高電圧スーパーキャパシタ実現への可能性が拓けたことは非常に意味深い。また、GMSシートは弾性を示し応力印加により細孔径を変化させられる可能性が高いため、細孔を変形させつつ電気化学的挙動の変化を調査する目的にも利用ができる。 従来の単層グラフェン多孔体はゼオライトを鋳型としたミクロ多孔性炭素であるゼオライト鋳型炭素と、GMSの2種類のみであった。単層グラフェンは1枚のシートが開いた構造を取るが、シートが閉じた構造をしているフラーレンも単層グラフェンから成る物質である。そこでフラーレンから成るミクロ多孔性ポリマーの調製を試み、これに成功した。単層グラフェン多孔体の材料群を拡張することも本研究の大きな目的の1つにしていたが、これを当初予定していなかったフラーレンにて達成できた。 以上のように、当初予定していた研究は概ね順調に進んでおり、なおかつ予定外の成果も得られたことから、当初の計画以上に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、単層グラフェン多孔体形成の原理原則の一般化を目指し、化学蒸気堆積(CVD)による炭素層形成過程の解析を行う。従来は基材として直径約7 nmのγアルミナを用いていたが、より直径の大きいγアルミナも基材に用いることで、基材の曲率半径がグラフェン組織に及ぼす影響を検討する。また、高温でも炭素と反応し難いタンタルやチタンの酸化物を基材に用いることで、1000℃を超える温度におけるCVDに関しても検討を行うほか、基材と接触した状態でのグラフェン層の構造変化についても詳細な分析を行う。CVDによる炭素堆積実験は干川助教が実施する。これらの目的を達成するため、平成30年度には1600℃程度の高温まで到達可能な熱量分析-質量分析同時測定装置(TG-MS)を導入する。TG-MSによる熱分解過程の詳細な解析は京谷教授が分担する。 また、シームレスなシート状GMSのキャパシタ電極としての性能評価を行う。シームレス構造により導電性と電圧耐久性が大幅に向上するときたいされるので、従来のデバイスを大幅に凌駕する超高性能を達成できると期待している。 単層グラフェン多孔体のエッジ部位の反応性についても引き続き検討を進める。電気化学的な酸化劣化反応をさらに詳細に分析し、化学反応式の同定を目指す。また、単層グラフェン多孔体のエッジ部位の触媒活性に関しても検討を行う予定である。 ミクロ多孔性フラーレンの物性についても検討を進める。フラーレンの分子が持つ電子物性が維持されたミクロ多孔体が得られている可能性があり、新物性が期待できる。
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