研究課題/領域番号 |
17H01060
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
楊 金峰 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (90362631)
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研究分担者 |
近藤 孝文 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (50336765) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / 電子線回折 / フェムト秒電子線パルス / RF電子銃 / 構造解析 / 構造ダイナミクス |
研究実績の概要 |
1)電子線パルスの輝度を向上するために、パルスの繰返し周波数が1kHzの相対論的フェムト秒電子線パルスを発生可能な1.4セルレーザーフォトカソード高周波(RF)電子銃を新たに構造設計し、製作した。このパルス繰返し周波数は、加速空洞の冷却機構の改善、空洞形状の最適化による表面電界の低減により達成でき、常伝導RF電子銃においては最高の値となる。この電子銃を用いて発生した電子ビームの輝度が今までの電子源より2桁に向上でき、目標の空間分解能の実現を期待できる。 2)大阪大学超高圧電子顕微鏡センターから移設した超高圧電子顕微鏡用のレンズに非点収差補正用Stigmatorコイルを実装し、絞りや試料挿入機構の改良、新しい真空排気システムの設計・製作を行い、新たなフェムト秒時間分解電子顕微鏡レンズ系を完成した。これを通して、RF電子銃から発生したエネルギーが3MeV、パルス幅が100fsの電子線パルスを用いた金ナノ粒子のTEM像の観察に成功した。 3)CsI(Tl)シンチレーション検出器と高速CMOSカメラを用いた相対論的エネルギー電子用の高感度顕微鏡像記録システムを構築した。この記録システムを用いて、相対論的フェムト秒電子線パルスによる金属、半導体、酸化物結晶等の電子回折図形の観察を行い、リゾチーム蛋白質結晶の電子回折図形の撮影も試みた。金やシリコン等の単結晶の観察では、十分明瞭な回折パターンを得ることができ、単一のフェムト秒電子線パルスを利用したシングルショット電子回折の測定に成功した。また、構造ダイナミクスを観察するため、ポンプ・プローブ測定法によるフェムト秒時間分解電子回折図形の記録システムを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)完成した相対論的フェムト秒時間分解電子顕微鏡レンズ系である。これは、本研究の目的である「超高速電子顕微鏡」の実現に最も重要な技術を確立したことである。今後、電子線パルスの輝度を向上すれば、目標の時空間分解能を達成可能である。 2)初めてのフェムト秒電子線パルスを用いた蛋白質結晶の電子回折図形観察の試みである。これにより、長年の問題である「電子線照射による損傷や変性」の影響を回避でき、損傷が起きる前に構造解析に必要な電子回折図形を撮影する技術「フェムト秒電子線結晶構造解析法」を実現できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
1)フォトカソードにレーザーを集光させ、カソードでの電子ビームサイズを縮小し、エミッタンスを低減させると共に、RF電子銃に高繰返しの運転を実現する。これにより、フェムト秒超短パルス電子ビームの輝度を増強させ、フェムト秒時間分解電子顕微鏡レンズ系と高感度検出器を利用して、電子顕微鏡像の倍率を10,000倍以上に向上させる。 2)フェムト秒時間分解構造ダイナミクス測定を通して、光誘起による構造相転移、放射線照射による損傷のメカニズム等の現象を測定し、フェムト秒電子線パルスを用いた新たな結晶構造解析法の確立と新展開を目指す。
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