研究課題/領域番号 |
17H01072
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
齋藤 晃 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 教授 (50292280)
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研究分担者 |
桑原 真人 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (50377933)
谷村 省吾 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (90273482)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 量子もつれ |
研究実績の概要 |
装置の設計:今年度予定していた電子銃チャンバー、加速電極、表面活性化チャンバー、電子顕微鏡との接続部、高圧導入部等の設計を完了した。また、量子もつれ電子を生成するのに用いる量子もつれ光生成のための光学系の構築を開始した。本来計画には含まれていないが、本研究課題遂行に重要となる単電子検出可能なピクセル検出器を利用できる機会を得たため、旧装置にその検出器を導入し性能評価を行った。その結果、単電子検出が行えることを示唆する結果が得られた。 半導体フォトカソードの作製:半導体フォトカソードとして用いるGaAs薄膜結晶を作製し、旧装置を用いて放出電子ビームの性能評価を行い、輝度、電流量、エネルギー幅、パルス応答性等が問題ないことを確認した。 スピン偏極電子の強度干渉実験:旧装置をもちいた予備実験として、スピン偏極電子による世界初の強度干渉(2次干渉)の実験を行い、アンチバンチングを確認した。このことから、本装置が量子干渉現象を観察するのに十分な性能を有していることが確認された。また、電子らせん波を生成するフォーク型回折格子を導入し、電子線の軌道角運動量とスピン角運動量の相互作用の効果が電子ビームの強度分布に現れるの検証実験を開始した。 理論的考察:電磁気学・量子力学を微分幾何学的に定式化する研究を行った。また,代数的量子論の方法を用いて、量子干渉効果とベル不等式の破れを記述する理論を構築した。これらの成果を解説記事の体裁で『数理科学』誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
旧装置をもちいた予備実験として、スピン偏極した電子線をもちいた強度干渉(2次干渉)実験を世界で初めて行い、アンチバンチングの効果を観測した。この結果は、本スピン偏極電子顕微鏡装置で量子干渉効果が観察できることを示すものである。29年度までに電子銃チャンバーの設計が完了し、30年度の電子銃部作製に向けた準備が整っている。また、新規に作製した半導体フォトカソードのテストを行い、問題なく動作することを確認している。量子もつれ状態を記述する量子論の研究も進めており、電磁場解析などにおいて有用な電磁場の幾何学的記述理論を研究している。
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今後の研究の推進方策 |
量子もつれ光生成の予備的な実験を行うために本装置とは別に構築したレーザー光学系をもちいて量子もつれ光生成に必要な条件を詰め、本装置での量子もつれ電子生成が迅速に行えるようにする。フォトカソードから放出される電子はフォトカソード内に残されたホールと量子もつれ状態にあるため、ホールの振る舞いが重要である。ホールの寿命がなるべく長くなるようフォトカソード結晶のバンド構造を検討しながら、本研究に最適なフォトカソード結晶の選択を行う。旧装置をもちいたスピン軌道相互作用観察の予備実験では、電子顕微鏡の軸調整によっては電子らせん波の生成に十分なコヒーレンスが達成されない場合があることがわかった。電子ビームのコヒーレンスを高めるような光学系の調整を行い、スピン軌道相互作用の検証を試みる。理論的な立場から電子スピンを用いて量子もつれ状態の生成を検証する方法を考案する。
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