研究課題
本研究では,新元素の合成に用いられる理研気体充填型反跳核分離装置GARISに,高周波カーペットガスセルとSi半導体検出器から構成される超高速低温ガスクロマトグラフ装置を開発することによって,超重元素(原子番号104以上)の気相系における化学的性質を単一原子レベルで解明するための新しい化学元素分析システムを開発している.今年度は,高周波イオン収集装置の引き出し効率と引き出し時間を評価・最適化するために,Ra-224線源から反跳するRn-220イオンを引き出す実験を様々な条件で実施した.イオンの減速に用いるHeガスを精製・冷却することで,イオンの中性化や分子化の原因となる不純物を低減し,60%以上の高い効率でRn-220イオンを引き出すことに成功した.また,Heガス圧力を400 mbar(室温換算)まで増加しても効率の減少はなかった.この結果から,本装置は,60 MeV程度の高エネルギーのイオンであってもロスなく引き出せることが期待される.一方,イオンの引き出し効率については,100 mbarのガス圧力で20 ms程度,200 mbarで30 ms程度,400 mbarで50 ms程度であった.この結果から,400 mbar以下のガス圧力であれば半減期0.91 sのNh-284を短時間で壊変ロスなく引き出せることが期待される.一方,高周波イオン収集装置の四重極イオンガイドの後段に四重極分離器を設置し,Csイオンを質量分離して引き出すことに成功した.これにより,核反応で生成された副生成物等を除去し,目的のイオンのみをガスクロマトグラフ装置に導入できると期待される.さらに,今年度は,高周波カーペットガスセルに結合する低温ガスクロマトグラフ装置の設計・製作を行った.前置増幅器から出力されたパルス信号の生波形をそのまま記録し,Nh-284を確度良く定量するために必要な16 chデジタルパルスプロセッサを整備した.また,Nh-284製造に必要なAm-243標的原料を化学精製し,分子電着法によりAm-243標的を試作した.
3: やや遅れている
理研超伝導線形加速器の増強工事が当初の予定よりも遅れているため.カルシウム48濃縮同位体が市場になく,超重核合成実験に遅れが生じているため.
これまでに開発した高周波カーペットガスセルと低温ガスクロマトグラフ装置を結合し,超高速低温ガスクロマトグラフ装置を完成させる.ガスクロマトグラフカラムは32対のSi半導体検出器で構成し,カラム末端を液体窒素で冷却し,室温から液体窒素温度付近まで温度勾配をかける.本研究で対象とするニホニウム(Nh),コペルニシウム(Cn)ならびにフレロビウム(Fl)は,強い相対論効果の影響で電子構造が閉殻構造となり,常温で貴ガス元素ラドン(Rn)のように気体となり,化学的不活性を示すことが予測されている.カラム内に入った単体原子は,カラム固定相と吸脱着相互作用を繰り返しながらアルゴンガスとともにカラム内を進む.単体原子が吸着し,アルファ壊変または自発核分裂壊変した検出器位置から元素固有の収率分布を得ることができる.最終的に,収率分布をモンテカルロシミュレーションし,超重元素の固定相に対する吸着エントロピーを導出する.超高速低温ガスクロマトグラフ装置の性能試験は,アルファ粒子放出核種であるRn-219をアルゴンとともに高周波カーペットガスセルに導入して進める.2021年度以降のNh,CnならびにFlの化学実験に向けて,これら元素の軽い同族元素の既知の化学的性質や相対論的量子化学計算の予測などを参考とし,超高速低温ガスクロマトグラフ装置のパラメーター(ガス圧,ガス流量,カラム温度など)を最適化する.本研究では,超重元素RIの合成から化学分離まで,所要時間1秒以内の超高速ガスクロマトグラフィーを目指す.さらに,2021年度は,GARISの焦点面に位置有感型の箱型Si半導体検出器を設置し,Am-243 + Ca-48 → Mc-288 + 3n反応によって115番元素Mc-288の合成を試みる.Mc-288が半減期164 msで瞬時にα壊変して生成するNh-284を化学実験に用いることを計画している.
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (18件) (うち国際共著 6件、 査読あり 17件、 オープンアクセス 12件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
Nat. Chem.
巻: 13 ページ: 226-230
10.1038/s41557-020-00634-6
Solv. Extr. Ion Exch.
巻: 38 ページ: 318-327
10.1080/07366299.2020.1726075
Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A
巻: 953 ページ: 163198-1-8
10.1016/j.nima.2019.163198
Phys. Rev. C
巻: 102 ページ: 024625-1-12
10.1103/PhysRevC.102.024625
JPS Conf. Proc.
巻: 32 ページ: 010022-1-3
10.7566/JPSCP.32.010022
RIKEN Accel. Prog. Rep.
巻: 53 ページ: 6-6
巻: 53 ページ: 14-14
巻: 53 ページ: 50-50
巻: 53 ページ: 162-162
巻: 53 ページ: 163-163
巻: 53 ページ: 164-164
巻: 53 ページ: 165-165
巻: 53 ページ: 166-166
巻: 53 ページ: 168-168
巻: 53 ページ: 169-169
巻: 53 ページ: 170-170
巻: 53 ページ: 180-180
現代化学
巻: 594 ページ: 43-49