研究課題/領域番号 |
17H01091
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
山田 澄生 学習院大学, 理学部, 教授 (90396416)
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研究分担者 |
白水 徹也 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (10282716)
松本 幸夫 学習院大学, 理学部, 研究員 (20011637)
儀我 美一 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (70144110)
野澤 真人 京都大学, 基礎物理学研究所, 研究員 (60547321)
小野寺 有紹 東京工業大学, 理学院, 准教授 (70614999)
三石 史人 福岡大学, 理学部, 助教 (80625616)
泉 圭介 名古屋大学, 基礎理論研究センター, 助教 (90554501)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アインシュタイン方程式 / ブラックホール定常解 / 調和写像 / レンズ空間 / 対称空間 / 4次元位相幾何学 |
研究実績の概要 |
研究協力者Marcus Khuri氏、Gilbert Weinstein氏とともに、3次元ユークリッド空間から対称空間SL(3,R)/SO(3)への調和写像を用いて、5次元真空アインシュタイン方程式の解を構成し、5次元アインシュタイン定常時空を定式化した。ここで現れる調和写像はディリクレ問題の解として構成されるが、その際に用いる漸近的に定義されたディリクレ境界条件は時空の持つ軸対称性を特定し、代わってその軸対称性は事象の地平線/ブラックホールおよび漸近遠方の位相的タイプを特定する。これらのタイプには、4次元時空では現れない幾何学的な多様性が実現されることがわかった。調和写像の存在定理を証明するには、対称空間の接続を制御する必要があり、そこにはSL(3, R)の岩澤分解から誘導される座標系が必要となった。また漸近遠方の位相的タイプが、ユークリッド空間以外の場合、つまりKaluza-Klein型、またはAsymptotically locally Euclidean型の場合においても、調和写像の存在を介して時空の構成が可能であることを示した。さらに、研究分担者松本幸夫氏の知見を得て、このようにして構成された5次元時空のブラックホールの外側の領域(Domain of Outer Communications)の時間一定面は境界付き単連結な4次元多様体であるが、いわゆるPlumbing Constructionと呼ばれる4次元トリーク多様体論の構成法を用いて、これらの多様体の位相的分類を完全に行った。これらの一連の結果は3本の論文として投稿し、当該年度中に学術雑誌における掲載が決定している。 また微分幾何学、偏微分方程式および数理物理学の分野を担当とする研究分担者たちとの連携を当該年度に渡って継続し、具体的な共同研究の契機を探ってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の研究活動は、5次元定常時空の構成という目的を達成し、その幾何学的および解析的な性質の理解を深めたという点で、当初の計画にあげた課題を達成している。アインシュタイン方程式によって誘導される5次元時空上で展開される幾何学は、ローレンツ幾何学とリーマン幾何学の連動という意味で新規性があり、本研究課題の次なる問題意識であるブラックホールのもつ特異点としての幾何学的定式化を、いわゆる山辺の理論を介して実行していく理論的な基盤の整備が終了した。これらの結果は、論文としてまとめられ、査読を経て国際的な学術論文誌に掲載が当該年度中に決まっている。情報発信という見地からは、これまでに物理学者によって各論的に発見されてきた5次元アインシュタイン方程式の厳密解の構成を、有限次元のモジュライ構造を持つディリクレ境界条件によって統合的に行う本研究課題のアプローチは、数理物理学の分野においても徐々に認知されてきており、これからの分野融合的な観点からの可能性が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
軸対称性を持つ楕円型変分法の解である調和写像によって構成された5次元定常時空は、回転軸において特異点が存在する可能性が残っており、大域的に定義された時空のハミルトニアン(ADM汎関数)の値を適正に選ぶことで、この特異点の解消を図る。実際、物理学者によって発見されてきた厳密解は、これらの特異点が不在であルことがわかっており、これら各論において成り立っている時空の平衡状態を、調和写像のモジュライ空間の中でどのように実現するかという方法論の確立が、次のステップとして求められている。またこれに関連した話題として、ADM汎関数、特にADM質量の値を、これまでに構成された時空において明示的に求める操作を定式化する。ここにおいては、4次元多様体内における曲率流等の偏微分方程式の方法論が必要である。
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