研究課題/領域番号 |
17H01100
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内田 雅之 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (70280526)
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研究分担者 |
清水 泰隆 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70423085)
林 高樹 慶應義塾大学, 経営管理研究科(日吉), 教授 (80420826)
小池 祐太 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (80745290)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 数理統計学 / 確率過程 / 高頻度データ / 高次元共分散推定 / ウェーブレット解析 / ジャンプ型拡散過程 / 初期到達分布 |
研究実績の概要 |
今年度は,(i)非エルゴード的拡散過程のハイブリッド型推測法および観測ノイズ付きエルゴード的拡散過程の適応的推測法の開発,(ii)ジャンプ型拡散過程による資産モデルを用いた保険数理および統計推測理論の構築,(iii)高頻度時系列データに基づく高次元共分散行列の統計推測,(iv)先行遅行関係の推定手法,について研究を行った.詳細は次の通りである. (i)高頻度データを用いて非エルゴード的拡散過程の初期ベイズ型推定量およびハイブリッド型推定量を導出し,その漸近的性質を証明した.また観測ノイズ付きエルゴード的拡散過程に対しては,高頻度データに基づいて観測ノイズの分散パラメータを推定した後,局所平均を算出して,適応的最尤型推定量を構成し,その推定量の漸近正規性を証明した.さらに仮説検定のために適応的検定統計量を提案し,その漸近的性質を証明した. (ii)保険会社の資産過程をジャンプ型拡散過程を用いてモデリングし,ある境界への到達時刻の分布に対する期待値型汎関数を用いてリスクを把握し,このリスク量を資産データを用いて統計的に推測するための理論的基盤をつくる研究を行った. (iii)高頻度データに基づく高次元共分散行列の統計推測の問題について研究した. この分野のほとんどの先行研究では共分散行列およびその逆行列の点推定についてのみ議論されているが, 本研究では区間推定や統計的仮説検定といった問題にも焦点をあてた. 具体的には, 高次元共分散行列の成分に対する同時信頼区間や多重検定を行うための理論および方法論を構築した. (iv)ウェーブレット解析を取り入れた確率過程間の先行遅行関係の推定手法(Hayashi and Koike (2016, 2017))において, 2系列の非同期性・スパース性によるクロス共分散計算の困難さを緩和するため「自己相関ウェーブレット」を用いた代替的計算法を検討した. 合わせて, 実証分析の対象銘柄を広げた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高頻度データに基づく非エルゴード的拡散過程のボラティリティ推定問題に対して,Kamatani, Nogita and Uchida (2016:BIC)の手法を応用して,最適収束率を有しないが,計算時間が比較的短く数値的に安定した,縮小されたデータに基づくベイズ型推定量を導出した.また,そのベイズ推定量を初期値としたマルチステップ疑似尤度解析を用いて,非エルゴード的拡散過程のハイブリッド型推定量を構成し,得られた推定量の漸近的性質を証明した.そして,計算機による数値シミュレーションにより,提案した推定量の計算速度およびその安定性を考察し,ハイブリッド型推定法が非エルゴード的拡散過程に対して有効であることを実証した. 観測ノイズ付きエルゴード的拡散過程のパラメトリック推測問題に対して,Favetto (2014:Statistics, 2016:SISP ) の結果に,Uchida and Yoshida (2012:SPA)の手法を応用して,観測ノイズの分散パラメータとエルゴード的拡散過程のボラティリティパラメータおよびドリフトパラメータの適応的最尤型推定量を構成し,得られた推定量の漸近正規性を証明した.観測ノイズ付きエルゴード的拡散過程に適応的最尤型推定法を導入したことにより,同時最尤型推定量に比べて,計算時間が短く安定した推定量を算出することが可能となった.また,観測ノイズ付きエルゴード的拡散過程の統計的仮説検定のために,適応的検定統計量を提案し,その漸近的性質を証明した.さらに,計算機による数値シミュレーションにより,提案した推定量や検定統計量の漸近パフォーマンスを検証し,適応的最尤型推測法が観測ノイズ付きエルゴード的拡散過程に対して有効であることが確認できた.
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今後の研究の推進方策 |
エルゴード的拡散過程や非エルゴード的拡散過程に加えて,観測ノイズ付き拡散過程に対しても,ハイブリッド型推測法が有効であることが期待される.具体的には,Kaino and Uchida (2018:SISP)の手法を観測ノイズ付きエルゴード的拡散過程に応用して,ボラテリティパラメータに対しては縮小データに基づくベイズ型推定量を導出し,ドリフトパラメータに対しては,間引きデータに基づくベイズ型推定量を構成する.これらのベイズ型推定量は最適収束率を有しないが,漸近挙動が安定し,計算コストを軽減できる可能性がある.そして,得られたベイズ型推定量を初期値としたマルチステップ疑似尤度解析を用いて,観測ノイズ付きエルゴード的拡散過程のハイブリッド型推定量を構成する.また,計算機による大規模数値シミュレーションにより,提案した推定量の漸近挙動(安定性)および計算速度を考察し,ハイブリッド型推測法の有効性を検証する.さらに,観測ノイズ付き拡散過程に対するベイズ型推定量やハイブリッド型推定量の漸近的性質を証明するために,観測ノイズ付き拡散過程に対する疑似尤度解析を整備する.
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