研究課題
アルマによる観測では3つの主要な実績をあげた。第一に,HD142527に付随する円盤からのダスト放射を輻射輸送モデル計算と比較した結果,ダストが比較的大きなサイズに成長している一方,ダスト光学特性に関する簡単な理論計算で期待される結果に比べて何らかの理由で散乱効率が低くなっている可能性が高いことが示された。第二に,中質量前主系列星であるAB Aurの円盤を高解像度観測した結果,惑星の擾乱によるとみられる渦巻構造を一酸化炭素分子輝線放射で新たに見出した。最後に,HL Tauのダスト円盤に対し複数波長の偏光観測を実施した結果,偏光ベクトルパターンに強い波長依存性が見られた。これは,サイズ100μm程度のサイズを持つダストの自己散乱偏光とそれ以外のダストの輻射による整列が同時に起こっている状況で期待される結果と一致する。次に水やスノーラインに関連する成果として,ALMA観測で有望なラインの特定をモデル計算にて明らかにした。また,すばる中間赤外線差分偏光撮像観測機能の導入を予定通り完了し,平成30年度より,リスクシェアでの共同利用に供されることになった。理論モデリングについては,まず第一に,円盤中に含まれる惑星が作るギャップについて,ギャップの形状から惑星のパラメータを制限する新たなモデルを提案した。第二に,ダストが高い空隙率を持つ複雑な形状を持つ場合のダスト光学特性を調べ,結果をまとめた論文が受理された。このほか,残骸円盤に関して,一酸化炭素分子と並び中性炭素原子からの放射を2天体から検出した。これは円盤ガス成分中の水素分子の存在度が低い可能性を示唆する。さらに,赤外線衛星AKARIデータに基づき,新たな残骸円盤候補天体を抽出した。以上を含め,年度内に18本の査読論文を出版した。
2: おおむね順調に進展している
アルマ観測に関しては,これまで取得したデータの論文化を進めている。これと並行して,円盤の詳細構造を解明するためと,円盤ダストのサイズを決めるためのミリ波・サブミリ波ダスト偏光観測を複数,新規観測提案を提出している。また,これらの研究の一翼を担う研究員の人選も進めた。これに関連する円盤モデルについては,惑星ギャップ,及びダストの光学特性に関して,理論考察・シミュレーションに基づく研究が進捗した。以上を踏まえて,これらを現在・将来取得されるアルマ観測データとどう比較していくかについての議論を,すでに昨年度に開始している。IRCSの改造によりすばる中間赤外線差分偏光撮像観測機能を付与する開発は昨年度,当初の予定通りに完了し,平成30年度よりオープンされたリスクシェアの共同利用にて,水氷フィーチャーの探査を2つの原始惑星系円盤に対して実施することが決定している。またこの課題については,水蒸気観測のモデリングとの比較やALMAに対する観測提案などとの連携も開始した。最後に,残骸円盤の中性炭素原子放射の検出を受けて開始した詳細なガス化学モデル計算も順調に進捗している。具体的には,ガスの起源が一次起源(星間空間から直接取り組まれたもの)であるか二次起源(惑星系内小天体からの脱ガスによるもの)であるかを議論した論文を,間も無く投稿できる見込みである。以上,全体としては,当初の予定通り順調に進捗している。
ALMA観測は,初年度同様の観測を継続する。これまでに取得したデータの出版はもちろん,平成30年4月に公募が行われるALMA Cycle 6において提出した観測提案の中から採択されたものの解析を進める。また,円盤の惑星ギャップやダスト光学特性に関する理論モデルでも初年度で十分な進捗が得られたので,これらを観測と比較して惑星形成過程を考える上でキーとなるパラメータを抽出する。具体的には,アルマのダスト放射(測光・偏光)観測ですでに明らかになっている円盤構造や波長依存性を最新のダストモデルに基づき再解釈し,ダストのサイズやアグリゲイト形状を構成する小粒子(モノマー)サイズに関する知見を得る努力を進める。また,惑星ギャップモデルについてはさらなる精緻化(溝近傍の温度・密度構造をより詳細に解いたり,ガスが非局所熱平衡にある場合の輻射輸送計算を可能にする拡張)を進め,より詳細な観測との比較を模索する。ガスと大きなダストの分離についても,数値計算に基づいて詳細に調べる。以上を遷移円盤や若い段階にある円盤に対するALMA観測の結果に適用し,それぞれについて惑星の有無や取り得る惑星質量範囲を議論する。赤外線観測では,拡張されたすばるIRCSを用いた観測データを蓄積し,氷ダストフィーチャーの検出を複数天体で目指す。最終的には,ALMAやSEEDSの結果と比較可能な約12天体の観測を目指す。残骸円盤についても,ガス化学計算の精緻化を進めるとともにALMAを用いたガス観測データとの比較を通じて,ガスの起源の解明を継続して進める。以上,全体としては,提案時の方向性から大きな変更をなく当面の研究を推進する。
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すべて 雑誌論文 (19件) (うち国際共著 8件、 査読あり 18件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (35件) (うち国際学会 12件、 招待講演 12件) 備考 (1件)
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