研究課題
原始惑星系円盤構造に関するALMAの観測研究では,HD142527やCR Chaに付随する円盤中におけるガス・ダスト分布の違いを検出した。特にHD142527円盤では,非軸対称リング円盤中のガス・ダスト比がダスト柱密度の-0.5乗に比例する形で変化していることや,吸収係数の周波数依存性を特徴づけるべき指数(β)がダスト濃集領域で小さくなっていることを明らかにし,ガス圧力の極大領域にサイズの大きなダストが濃集していることの確証を得た。この他,残骸円盤の観測でも進展があった。次に中間赤外線での水氷に関連する観測研究では, Subaru/IRCSのL-band偏光分光機能で得られたHD142527円盤の水氷分布の情報をモデリングを通じて解釈した。その結果,氷の存在比がPollackら(1994)のダストモデルで説明できることを確かめた。これはALMAで明らかになったダストが濃集していない領域をみたもので,円盤上空に巻き上げられた比較的小さなサイズのダストの性質を捉えたものであると解釈された。一方,理論ではダスト進化を継続して検討した。ミクロな素過程を探る観点からは,リング状のダスト放射分布の起源を知る鍵となる焼結ダストの衝突跳ね返り過程を数値計算で調べた。跳ね返りの条件を満たすためには,焼結に加えダストアグリゲイト内の接触点数が多いことも必要であることがわかった。すなわち,跳ね返り現象を調べるためには,接触点数の進化を追う必要があると考えられる。関連して,焼結が接触点数の増加を妨げることも明らかにした。一方,円盤スケールでのダスト進化を調べる方向性では,ダストから惑星までの40桁にも及ぶ質量成長を取り扱う一貫した惑星形成シミュレーションのコード開発を行ない,これを完成させた。また,ダスト連続波放射に影響を及ぼす衝突破壊現象を衝突シミュレーションにより調べ,論文にまとめた。
2: おおむね順調に進展している
ALMAを用いた円盤構造の研究では,個別円盤の詳細観測で得られたデータを注意深く解析することにより,惑星形成にとって重要な現象と考えられるダスト濃集領域に対する定量的特徴付けが大きく進展した。具体的には,ガス・ダスト比やダストサイズ分布の面密度依存性などである。これらの成果は,本研究課題で解明を目指していた問題に対して想定通りの進捗を得ただけでなく,今後の理論的解釈をさらに進めるために必要な新たな課題を提供したものと評価できる。また,円盤内の水氷分布を捉えるために必要なSubaru/IRCS熱赤外偏光機能についても,最初に観測した天体において得られた円盤起源の氷フィーチャーに対する解析が順調に進展した。この観測データを解釈する過程で,水氷ダストの詳細な性質に関する理論的理解も深まりつつあり,翌年度以降の進展が期待できる状況が整っている。観測研究と並行して,理論的研究も進捗した。観測で明かされた円盤内のリング状構造や非軸対称構造の起源の解明を視野に入れつつ,ダスト進化の理論的考察をミクロ・マクロ両面から深めた。ミクロな観点で得られたダスト跳ね返りの条件は,円盤内ダストの成長を詳細に追跡する上で考慮すべき新たな観点であり,これを含めた理論計算と円盤観測との比較の進展が今後期待できる。一方,マクロな視点からは,ミクロンサイズのダストから惑星サイズに至る固体成分の成長を初めて一貫した形で数値計算することに成功した。これは惑星形成理論にとって大きな進歩というだけでなく,円盤中で観測される惑星ギャップとみられる構造の年代と数値計算の結果とを直接比較する道を開いたという意味でも,画期的な成果であると評価できる。以上をまとめると,本研究課題で当初目標として挙げていた観測と理論を両輪とする惑星形成過程の理解は順調に深化している。すなわち,「おおむね順調に進展している」と評価できる。
ALMAを用いた円盤観測ではこれまでの方向性を継続する。一方で,円盤内ダスト空間分布の粒子サイズによる違いをさらに明らかにしていくためには,複数周波数でのダスト連続波データを統合的に解析する新たな解析手法の確立が重要であるとの認識に至った。これを実現するため,研究代表者・分担者と共同で研究を推進する研究員を雇用する。また,ミリ波における偏光撮像観測により,円盤におけるダストや磁場の性質を明らかにする。ALMA望遠鏡により,太陽系から最も近い原始惑星系円盤であるうみへび座TW星の偏光観測データがすでに一部取得されているほか,他天体の観測提案を行い,より一般的な描像を得るために天体数を増やす。赤外線観測では,Subaru/IRCS熱赤外偏光機能を用いた近傍の原始惑星系円盤や星形成領域の散乱光観測を継続して進める。その過程で,水氷ダストの性質に関する理論的理解を一層深める必要性があるとの認識に至った。これを研究協力者との共同研究で推進し,理論・モデリングの精緻化をはかり,円盤内水氷ダストのサイズと存在量をより正確に導出する。理論面では,まず第一に,ダストサイズから惑星サイズまでの衝突進化シミュレーションを継続する。ガス進化についても,輻射輸送を考慮した化学平衡計算も行いながら調査する。これらの結果をもとに,観測では捉えられない微惑星以上のサイズの天体や水素分子などの情報をALMAによる円盤観測から推定する理論モデルを構築する。第二に,ダスト成長に関連した理論研究もさらに進める。中程度の充填率をもつダストの形成には,より小さなダストがダスト表面へと降り積もる成長モードが適している。このような成長モードの実現可能性やこのモードにおけるダスト衝突圧縮度合について調べる。また,中程度の充填率をもつダストを,自己重力で密になった大天体の衝突破片として生成する過程の可能性も検討する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (22件) (うち国際共著 11件、 査読あり 22件、 オープンアクセス 13件) 学会発表 (26件) (うち国際学会 12件、 招待講演 6件) 備考 (2件)
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