研究課題/領域番号 |
17H01110
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉山 直 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (70222057)
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研究分担者 |
市來 淨與 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (10534480)
田代 寛之 名古屋大学, PhD登龍門推進室(理), 特任講師 (40437190)
大内 正己 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (40595716)
赤堀 卓也 鹿児島大学, 理工学研究科, 特任准教授 (70455913)
高橋 慶太郎 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (80547547)
竹内 努 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (90436072)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電波天文学 / 理論天文学 / 宇宙物理学 / 宇宙再電離 / 宇宙磁場 / 銀河進化 |
研究実績の概要 |
まず、宇宙再電離の研究について、理論モデル構築および構築されたモデルと観測データとの比較を目指し、概ね達成された。数値計算による高赤方偏移銀河モデリングやすばるHSCサーベイの結果の比較に関する査読論文4編、数値計算結果を用いた銀河間物質の物理状態に関する査読論文5本、パラメータサーベイに特化した高速電離構造計算コード開発と応用に関する査読論文1本が受理され、そのほか関連論文2本を投稿した。EoR 21cm線検出の際に問題として挙げられる前景放射を軽減するため、PlanckおよびWMAPによるCMBデータとの相互相関を計算し、相互相関シグナルについて、171MHzという周波数帯で数度の角度スケールで世界初となる<31mK^2という上限値を得た。結果は論文として投稿中である。 次に、宇宙再電離期の21cm線と高赤方偏移銀河の相互相関を取ることで21cm線の検出可能性を高めるための準備研究を行った。具体的な電波観測と銀河サーベイを想定し、熱雑音やショットノイズ、前景放射などの効果を入れて観測シミュレーションを行い、検出可能性を探った。 宇宙磁場の研究については、宇宙再電離研究に資する天の川銀河前景放射を、天の川銀河のモデルを構築することで予測することが目標であった。当該研究に関連して、筆頭査読論文1件が出版され、共著査読論文2件が投稿された。 銀河進化の研究については、電波連続波で観測される銀河の計数モデルを開発し、MWAからSKAによる探査で検出される銀河の個数・赤方偏移分布・種族を明らかにするためのツールとすることを目標とし、これが一応の完成を見た。また銀河のガスから星への転化を司る物理を解明するため、スケーリング則の空間分解と統一をめざし、星形成則を支配する物理量を発見した。これらの結果は天文学会および研究会にて発表済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の中核をなす中性水素21cm線と高赤方偏移銀河との相互相関により、宇宙再電離期の星形成・銀河形成過程を明らかにする、という目的のために、H29年度は、理論モデルの正当性を検証するために行ったシミュレーション結果とHSCサーベイによる観測結果の比較を実施できた。そこでは、我々の高赤方偏移銀河モデルは観測される銀河の空間分布や個数密度をよく再現できることが示せた。さらに、このシミュレーション結果を用いて21cm線と高赤方偏移銀河との相互相関シグナルのMWAとすばる望遠鏡を使用した場合の検出可能性も見積もることができた。その結果、(感度的には21cm線が検出可能であること、次世代にすばる望遠鏡の装置であるPFSを用いた場合に小スケールでのシグナルの感度が劇的に向上することなどがわかった。一方で、相互相関をとった場合でも21cm線を検出する為には、前景放射の除去が必須であることあきらかになり、精密な前景放射モデルの構築が急がれる。 MWAへの参加も着々と進められ、サイエンスの推進とソフトウェア開発などをオーストラリアチームと共同で行っている。また、オーストラリアと日本の間で大学院生や研究者が互いに訪問して交流を行い、共同研究を推進している。さらに、MWAによるHSCサーベイ領域観測も開始され、21cm線-高赤方偏移銀河相互相関観測の準備が整いつつある。また、MWAの観測する電波連続波周波数での銀河計数モデルのプロトタイプを完成させることができた。これにより、様々な電波連続波での銀河・AGN予想検出個数の計算が可能になった。 本研究計画のもう一つの柱である宇宙磁場の起源や発展の解明については、宇宙磁場の乱流磁場による偏波解消効果の定式化の研究を行った。そこでは、計算機データと定式化した効果の比較を行っい、定式化の正しさを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
中性水素21cm線と高赤方偏移銀河との相互相関の研究のために現状で使用している理論モデルは、銀河が主たる電離光子源である場合のみに対応している。しかし、我々が示したように活動銀河核が光子源としている可能性は完全には棄却できない(Yoshiura et al. 2017)。そこで、今後は活動銀河核が光源である場合を含め様々な理論テンプレート作成していく。その為には、パラメータサーベイに特化した高速電離構造計算コードが必須となるが、これまでに開発したコードを改良して再電離計算に応用していく。MWAによるHSCサーベイ領域観測が首尾よく進めば、実際に理論モデルとの比較にも着手したい。前景放射の問題については、現在七次多項式を用いているが、それでも前景放射の残差成分が相互相関の感度をリミットしていることが明らかになっている。今後はスパースモデリングを活用するなど多項式の次数までデータそのものに決定させるなど工夫し、感度を上げていくことを目指していく。 宇宙磁場に関しては、H30年度は当初の予定通り、実際のMWAから得られるデータを使った研究を目指す。リストアップしてある幾つかの天体候補について電波イメージを解析し、新たな知見が得られないか研究する予定である。 銀河進化の研究については、電波連続波銀河計数モデルを用い、MWAの様々な観測量から物理量を求め、cm波帯での銀河進化の定量化と解釈を進めることを目指す。H30年度は引き続きモデルの改良を進め、重力レンズ効果やダークハローの進化を組み込む。またHI輝線での銀河計数モデルにも着手する。
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