研究課題/領域番号 |
17H01111
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長峯 健太郎 大阪大学, 理学研究科, 教授 (50714086)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 理論天文学 / 銀河形成 / 数値シミュレーション / 流体力学 / 超新星爆発 / ダスト |
研究実績の概要 |
平成29年度に宇宙論的銀河形成SPHコード GADGET3-Osakaの開発が終了し、銀河風によるフィードバック、ダストの形成破壊モデル、CELib (Saitoh 2017) の詳細な超新星爆発による元素合成モデルを導入した宇宙論的銀河形成シミュレーションが実行できるようになった(Aoyama et al. 2017, 2018, 2019; Hou et al. 2017, 2019; Shimizu et al. 2019)。また、PFS観測に対応したLyα forestの赤方偏移空間における吸収プロファイルが具体的に計算できるようになった。さらにTridentコード(Hummels et al. 2017)を使用し、紫外背景放射を適切に考慮したメタル吸収線も多数の視線について計算できるようにデータの解析方法を改良した。Osaka feedbackモデルでは、熱的フィードバックのみならず、運動力学的なフィードバックも考慮されており、局所的な物理量(例えばガスの密度や温度)を利用して超新星爆発バブルの大きさを計算し、それに応じてフィードバックを及ぼす範囲が決定されている。これによって、超新星Ia, II型、AGB星などによるフィードバックや金属汚染の効果を時間の関数としてより細かく高解像度で追うことが可能となり、ズームインシミュレーションにおいてより正確な星間物質の多相構造を分解することが期待される。このようなコードは世界的にもいくつかの限られたグループしか開発できておらず、非常に有意義なコード開発であると考えられる。また、星形成と超新星爆発フィードバックのモデルが入った宇宙論的流体シミュレーションを用いて、Lyα forestの計算をきちんと行なっているグループはほとんどなく、最先端の結果を得る直前に来ていると言えるだろう。ダストの破壊と成長のモデルを取り込んだ宇宙論的銀河形成コードも先駆的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたコード開発はおおむね終了し、上記で説明したOsaka feedbackモデルを用いたGADGET3-Osakaコードを用いてAGORAプロジェクトの孤立系銀河シミュレーションを実行した。 当初予定していたコード開発はおおむね終了し、そのコードを用いてAGORAプロジェクトの孤立系銀河におけるテストも実行し、論文を出版した(Shimizu et al. 2019)。宇宙論的銀河形成シミュレーショも実行しlight coneデータを作成した。また、PFS観測に対応したLyα forestの赤方偏移空間における吸収プロファイルを自前のコードで計算できるようになり、 PFS観測に対応したLyα forestの赤方偏移空間における吸収プロファイルも計算できるようになった。ダストの形成と破壊モデルについても、Hirashita (2015)による2-componentモデルの実装に成功し(Aoyama et al. 2017)、そのコードを用いて孤立系銀河と宇宙論的シミュレーションの両方においてダストに関する統計量及びextinction curveの空間分布などを計算することに成功した(Aoyama et al. 2018, 2019; Hou et al. 2017, 2019) 。これらについても世界で2グループ程しか成功していない重要な研究成果である。 専門的な学術雑誌に論文を多数出版し、国際学会や国内天文学会・研究会などでも多数研究発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
上記のようにプロジェクト全体としては順調な進捗状況であるが、今後研究をさらに進めていく上でまだ不十分な点が残っている。Lyα forestの赤方偏移空間における吸収プロファイルは計算できるようになったが、フィードバックに関する制限をつけていくためにはそれに対応するメタルの吸収線を同時に計算しないといけない。これを背景紫外線場及び局所的な星形成による輻射場と整合的になるように計算するには、光電離計算を行う必要があり、計算量も増えて困難が増す。これについては二つの方策を練っている。まず一つ目は、Tridentコード(Hummels et al. 2017)を利用し、紫外背景放射を適切に考慮したメタル吸収線の計算を進めていく。二つ目は、Cloudyを利用し事前に関連する物理量の表を準備しておいて、シミュレーション内の物理量に応じて内挿することである。今後双方の手法を検討していく。また、中性水素ガスや銀河との相関を調べて、よりPFS観測に近いパラメータに合わせた視線計算を行い、観測提案の立案を行っていく。より具体的には、銀河・中性水素・メタルなどの2次元相互相関関数を計算し、PFS観測でどこまで探れるのかを観測家とも連携して検討と予測を行なっていく。広視野のすばる観測を活かすためには原始銀河団に関連付けたサイエンスを考えていく必要があり、原始銀河団周辺の金属汚染について、銀河と対比させながら、環境効果などを様々な元素について調べていく。原始銀河団領域は、フィールドに比べて高密度領域であり、銀河形成がより促進されていると考えられるので、金属汚染も早く進むはずであり、Type Ia, II超新星によるyieldの差が生まれる可能性もある。例えば、[O/Fe]などのalpha-enrichmentの違いを原始銀河団の中心からの距離及びredshiftの関数として求めて吟味する。
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